【第7回】 契約の準拠法(2)

律子

…というわけなんです。

「そんなことがあった」と聞いただけで、結局どうなったのかは知らないのですが。父の会社で使用している重要なソフトウェアに係るライセンス契約ということで、使用できず困っていたようです。

テーマ

1.国際裁判管轄
● 合意管轄
● 契約債務履行地管轄

2.準拠法選択
● 法律行為の方式の準拠法
● 当事者自治の原則

3.外国判決の承認・執行
● 公示送達

事案

● 律子の父が経営するR社(日本法人・主たる事業所所在地:日本)は、 A社(甲国法人・主たる事業所所在地:甲国)とソフトウェア(「本件ソフトウェア」)のライセンス契約(「本件ライセンス契約」)締結し、権利許諾を受けた。
・本件ソフトウェアの開発は、R社が中心的な役割を担いつつ、R社の技術者・A社日本事業所からの派遣技術者の共同で、主に日本で行われた。
・契約期間は10年間
・ライセンス料(3億円)は、契約締結の翌日に支払う旨の規定がある。
・ライセンス許諾に基づくA社の債務履行地については規定がない。

● 本件ライセンス契約については、契約書面の作成は行われず、契約書ドラフト(送信者側の代表取締役によるサイン済みページを含む )の電子ファイルを電子メールに添付し、申込につきR社からA社に対し、その後に承諾につきA社からR社に対し、相互に送信する方法で締結された。

● 本件ライセンス契約において、次に挙げる2条項も規定されている。
【契約条項】
第X条(準拠法)
 本契約の成立の準拠法は乙国法とし、その効力の準拠法は丙国法とする。

第Y条(国際裁判管轄)
 本契約に基づく訴えに関しては、甲国ベッカ地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。


● 甲国・乙国・丙国の民法は、各々下記趣旨の規定を有する。
【甲国民法】
・ 契約の成立には、契約書面の作成を必要とする。
・ 債権は、権利を行使することができる時から十年間行使しない場合、時効によって消滅する。


【乙国民法】
・ 契約の成立には、契約書面の作成を必要とする。

【丙国民法】
・ 債務の履行は、債権者の現在の住所又は主たる事業所においてしなければならない。

・ 債権は5年で時効消滅する。

● 契約締結から5年半後、R社からライセンス料の支払いを受けていなかったとA社内で騒動になり、R社向けソフトウェア提供システムを停止。しかし、それ以上の行動は起こされなかった。

● 本件ライセンス契約締結から6年経過後、R社は、日本の裁判所において、 A社に対し、代金支払済みであることを主張し、ソフトウェア使用権に基づく履行請求の訴えを提起。その際、Y条(国際裁判管轄)については、本来「東京地方裁判所」とすべき誤記であるとして、錯誤に基づく管轄合意の取消しを主張した。

ワヴィニー

これまでと同様、広義の国際私法の観点で分析を加えてみましょう。

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1.国際裁判管轄

(1)管轄合意の有効性

(管轄権に関する合意)
第三条の七 当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。
2 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
(略)

ワヴィニー

まず、本事案における管轄合意は、電子メールで契約書ドラフトのファイルを交換しており、「電磁的記録」により合意がされたものとして、民事訴訟法第3条の7第3項の要件は充足しますね。

律子

ただ、父の会社(R社)は、錯誤に基づく管轄合意の取消しを主張していたようです。

ワヴィニー

そのようですね。
管轄合意は、「国際裁判管轄」の問題であると同時に、「契約」でもあるため、その点につき、準拠法が問題となります。

律子

???

準拠法は、本件ライセンス契約における第X条(準拠法)に基づき、乙国法又は丙国法ではないのですか?

● 管轄合意(民訴法3条の7第1項)の有効性
その判断のための準拠法が問題となる。 例えば下記のような考え方がある。
・ 法廷地法説
・ 合意管轄地法説
・ 契約(成立の)準拠法説

ワヴィニー

本事案においては、各々下記結論になりますね。
・法廷地法説(裁判所で訴えが提起されている日本の法)
・合意管轄地(ベッカ地方裁判所が存在する甲国の法)
・契約(成立の)準拠法説(第X条(準拠法)に基づき乙国法)

そのような議論がある、という点だけ理解し、一旦法廷地法説に依拠しておきましょう。

律子

実際の訴訟でもそうなったようです。結局、日本国民法95条1項に基づき、本事案における管轄合意は取り消されたとのことでした。

ワヴィニー

ただ、本事案については別の管轄原因がありますから、そちらに依拠したのでしょうね。

(2)契約債務履行地

(契約上の債務に関する訴え等の管轄権) 第三条の三 次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定めるときは、日本の裁判所に提起することができる。

一 契約上の債務の履行の請求を目的とする訴え又は契約上の債務に関して行われた事務管理若しくは生じた不当利得に係る請求、契約上の債務の不履行による損害賠償の請求その他契約上の債務に関する請求を目的とする訴え

契約において定められた当該債務の履行地が日本国内にあるとき、又は契約において選択された地の法によれば当該債務の履行地が日本国内にあるとき

● 趣旨
((広く「財産権上の訴え」ではなく)「契約上の債務の履行の請求を目的とする訴え」に限定した趣旨
「法定債権に係る義務履行地は、原告が訴えを提起した国の国際私法により決定される準拠法により定まることとなるので、契約上の債務とは関連性のない不法行為等の場合には、原因行為が行われた時点では、被告がその義務履行地を予測することは困難であり、義務履行地のある国の裁判所に国際裁判管轄を認めると、被告の予測し得ない国の裁判所での応訴を強いることとなるから」(佐藤=小林・一問一答 41頁)。

● 趣旨
(「契約において選択された地の法によれば当該債務の履行地が日本国内にあるとき」とした趣旨)
「契約において選択された準拠法によれば債務の履行地が日本国内にあるときは、債務の履行地を当事者が予測することが可能であり、その債務の履行地がある日本の裁判所に管轄権を認めても当事者の予測に反しないと考えられるから」(佐藤=小林・一問一答 37頁)。

ワヴィニー

お父さんの会社(R社)による履行請求の訴えは、ライセンサーであるA社の「債務の履行の請求を目的とする訴え」に該当しますので、第X条(準拠法)による「契約において選択された地の法」である丙国法により、「当該債務の履行地が日本国内にあるとき」には、日本の裁判所の国際裁判管轄が認められます。

この点、丙国法によれば、債務の履行地は債権者の主たる事業所であり、債権者R社の主たる事業所の所在地は日本ですので、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められることとなります。

本事案を離れ、念のためお伺いしますが、日本法上、債務の履行地につきどのような規定がありますか?

律子

ワヴィニー

国際私法を学ぶのであれば、実質法(実体法・手続法)の学習は大前提ですよ。
国際私法が間接規範だからといって、事案に直接適用される実質法を学ぶ必要はない、わけではありません。
むしろ、民法だけではなく、商法等も積極的に学ぶ必要もあります。

後で結構ですので、商法516条を読んでおいて下さい。民法484条も。

では、次に準拠法の検討に入りましょう。
本事案では、甲国・乙国・丙国・日本の法律の内容が異なり、またその適用結果も異なりうるため、準拠法の決定が必要となります。

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2.準拠法選択

(1)契約の方式

(法律行為の方式)
第十条 法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法(当該法律行為の後に前条の規定による変更がされた場合にあっては、その変更前の法)による。
2 前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は、有効とする。
3 法を異にする地に在る者に対してされた意思表示については、前項の規定の適用に当たっては、その通知を発した地を行為地とみなす。
4 法を異にする地に在る者の間で締結された契約の方式については、前二項の規定は、適用しない。この場合においては、第一項の規定にかかわらず申込みの通知を発した地の法又は承諾の通知を発した地の法いずれかに適合する契約の方式は、有効とする。
5 前三項の規定は、動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利を設定し又は処分する法律行為の方式については、適用しない。

● 趣旨
(通則法10条4項)
・ 隔地的な法律行為の方式に関して、法例上は明文がないとの理解が多数説であったところ、「行為地法」の確定につき争いがあった。その点を明確にするための規定。

● 通則法10条3項・4項の棲み分け
・ 4項(「契約」)との対比から、3項は単独行為(例:解除等)に関する規定。

ワヴィニー

本事案においては、以下のような状況です。
・ 申込の発信地(日本)→ 契約書の作成は不要(意思主義)
・ 承諾の発信地(甲国)→ 契約書の作成が必要
・ 契約(成立)の準拠法所属国(乙国)→ 契約書の作成が必要

結論的には、日本法に適合する方式に基づく契約として、本件ライセンス契約は方式の要件を充足していることとなります (通則法10条4項により、同条2項・3項は適用されず、かつ契約(成立)の準拠法(乙国法)に関わらず、選択的に日本法によることとなります)。

律子

A社は、「本事案と関係のない丙国法を準拠法とすることは認められない」、或いは「A社の主たる事業所所在地法である甲国法と比べ、短期間の消滅時効を認める丙国法を準拠法とすることはA社に不利なので、甲国の強行法規を潜脱するものとして認められない」等と主張していたようですが。

(2)当事者自治の制限論

● 当事者自治の制限論・批判
・当事者自治の原則については、実質法における契約自由の原則と同様、様々な制限論(下記)がある。
・しかし、通則法の下、いずれの考え方も基本的には採用されていない。ここでは下記事項を超えては立ち入らない。
・なお、下記とは別の話として、 公序(通則法42条)・法廷地の強行法規に基づき、当事者自治が制限を受ける点につき争いなし。

1.量的制限論
当事者による法選択を、契約締結地・履行地等、契約関係と何らかの関連を有する地の法に限定する考え方
【批判】
例えば、海上保険の分野で標準的な法として通有する英国法等、事案に関係のない地の法を適用する実務的ニーズがある。等

2.質的制限論
当事者による法選択を、任意法規の範囲に制限する考え方
【批判】
強行法規・任意法規の区別は実質法上の区別であり、国際私法上の議論と実質法上の議論を混同している。等

3.第三国の強行法規の特別連結理論(別途解説)
(「第三国」とは、法廷地国でも準拠法所属国でもない国を指す。)

律子

本事案では、いずれの主張も認められなかったようです。

ただ、相手方(A社)は、第X条(準拠法)について、 本来成立・効力とも「甲国法」とすべき誤記であるとして、錯誤に基づく準拠法合意の取消しも主張していたようです。

(3)準拠法合意の有効性

● 準拠法合意の有効性に関する議論・批判
・その判断のための準拠法が問題となる。 例えば下記のような考え方がある。
・ここでは下記事項を超えては立ち入らない。

・ 契約準拠法説
【批判】
有効性が問題となっている条項に基づき選択される準拠法により有効性の判断をすることは、論理的循環論に陥る。

・ 国際私法独自説
実質法によらずに、国際私法上の問題として一定の基準を設定し、有効か否かを決する。
【批判】
具体的な基準が不明確

・ 法廷地法説

ワヴィニー

少なくとも論理的・理論的に優れているようには思われるため、一旦、国際私法独自説によれば良いでしょう。

律子

結論的には、相手方(A社)による当該主張も認められず、第X条(準拠法)は有効という結論になったとのことではありました。

…仮に取り消されていたら、当事者による法選択がなかったこととなり、どうなったのでしょう?

(4)特徴的給付の理論

(当事者による準拠法の選択がない場合)
第八条 前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。

2 前項の場合において、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法(その当事者が当該法律行為に関係する事業所を有する場合にあっては当該事業所の所在地の法、その当事者が当該法律行為に関係する二以上の事業所で法を異にする地に所在するものを有する場合にあってはその主たる事業所の所在地の法)を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法推定する。

3 第一項の場合において、不動産を目的物とする法律行為については、前項の規定にかかわらず、その不動産の所在地法を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。

● 趣旨(特徴的給付の理論)
商取引に関しては, 契約関係の重点が職業的行為を引き受ける者の側にあることから, 契約の最密接関係地法は商人が営業を営む地の法であるとする考察を基礎とするもの」(小出・一問一答 50頁)。

ワヴィニー

本事案において、当事者による準拠法選択がない場合、通則法8条2項の「推定」に基づけば、準拠法はライセンサーたるA社の「主たる事業所の所在地の法」、即ちA社の主たる事業所所在地法である甲国法となっていたはずです。

1つ注意しておいて頂きたいのは、通則法8条2項は、あくまで「推定」規定だということです。

本事案においては、「本件ソフトウェアの開発過程は、R社が中心的な役割を担いつつ、R社の技術者・A社日本事業所からの派遣技術者の共同で、主に日本で行われた。」というお話ですから、仮に第X条(準拠法)が取り消された場合において、裁判所が甲国より日本を本件ライセンス契約に最も密接な関係がある地であると判断したときには、当該推定は覆され、日本法が適用されたでしょう。

律子

通則法10条と8条を再度見てきたのですが、その間の9条(当事者による準拠法の変更)も、先程既に見たような気がしますが。

(5)当事者による準拠法の変更

(当事者による準拠法の変更)
第九条 当事者は、法律行為の成立及び効力について適用すべき法を変更することができる。ただし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない。

ワヴィニー


不法行為につき、同様の条文(通則法21条)がありましたね。
むしろ通則法9条が、当事者自治の原則が認められる法律行為に関する規定として、同原則に基づき当事者による準拠法の変更を認める本来的な規定です。
ただ、現時点では、条文を一読しておくだけで十分です。

さて、本事案において、最終的には、契約(効力)の準拠法である丙国法が適用されたのでしょうね。
お父さんの会社(R社)の履行請求が認容された一方、A社のライセンス料支払請求権は消滅時効(5年)にかかったという判断になったのかもしれません。
ただ、国際私法の間接規範性に鑑み、丙国法の内容とその適用結果については、今回の検討から外しますが。

最後に簡単な設例を使って、外国判決の承認・執行に関する知識を1つ仕入れておきましょう。

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3.外国判決の承認・執行

【設例】

● 本事案において、A社が、甲国裁判所において、R社に対し、ライセンス料の支払を求め訴えを提起。勝訴判決を得た。

● R社に対し公示送達がされたが、R社は認識していなかった。
(なお、その他、国際裁判管轄(間接管轄)・判決の内容等、 手続面でも実体面でも問題はなかった。)

(1)公示送達

(外国裁判所の確定判決の効力)
第百十八条
外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
一 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
二 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
三 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
四 相互の保証があること。

ワヴィニー

細かいのですが、「公示送達」等は一律に「送達」から除外されている点、この機会に覚えておいて下さい。
民訴法118条2号の趣旨(被告の応訴の機会の保障)から考えると、括弧書きも自然に理解できるはずです。

本設例においては、甲国裁判所によるA社勝訴判決は日本では承認されません。

まとめ

1.国際裁判管轄
● 民訴法3条の7
● 民訴法3条の3第1号

2.準拠法選択
● 通則法8条2項
● 通則法10条3項・4項
● 通則法9条

3.外国判決の承認・執行
● 民訴法118条2号括弧書き

ワヴィニー

最後に、甲国法等の外国法への向き合い方については、こちらを参照しておいて下さい。
●「外国法(向き合い方)~準拠法として

さて、お父さんの会社でも、国際取引を行なっていると様々なトラブルがあるものですね。
目まぐるしく変わる事業環境に適応しつつの「事業推進」だけではなく、「企業防衛」も大切です。

律子

目まぐるしく変わると言えば…

【第8回】 物権の準拠法(2