国際私法では「学ばない」こと(2)
…国際私法に若干関係がある余談ですが。
知人が、「国際私法では、英語も外国法も学ばない」と言っていました。
英語については、1つの大きなテーマですから、機会を改めて解説することとしましょう。
外国法については、「学ばない」の内容・程度等次第ですが、確かに国際私法では「学ばない」と言えます。
それは、一般的抽象的な外国法に関する理論は「学ぶ」のだが、しかし個別具体的な外国法(例えばドイツ法等)についてまでは「学ばない」、ということなのですが。
今回は、国際私法の学習範囲・対象等に関する誤解を解きほぐす等の主旨で、「補講」と位置付け解説をしておきます。
「お日様」と「お月様」の話です。
「お日様」と「お月様」?
1.国際裁判管轄等
一言で言えば、例えばドイツの「民訴法3条の2以下」等は「学ばない」、ということです。
● 「国際裁判管轄」等の学習範囲
・ 外国の「民事訴訟法」等(国際裁判管轄に関する規定)そのものは「学ばない」。
・ 国際私法の学習に際しては、事案・設例等において、架空の「甲国民事訴訟法」等として登場するのみ。
・ 国際私法(広義)の学習対象は、はあくまで「国内法」(「『国際』私法」という名称から、誤解されることも多いが)。
・ 本質的には、そもそも「国際裁判管轄」の問題は、基本的には「日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるか」という一方的問題だから。
少し気持ちが楽になりました。
外国のロースクールにおいて、日本の「民事訴訟法」(3条の2以下)を学ばないのと同様ですね。
しかし、国際私法の学習に際し、外国の民事訴訟法について「学ぶ」場面はありました。例えば「間接管轄」等の話です。念のため。
ただ、それは、後述する「3.外国判決の承認・執行等」での問題でした。また、いわゆる鏡像理論(通説)によれば、結局、日本の民事訴訟法の話に収斂される問題でしたね。
2.準拠法選択等
(1)国際私法(狭義)
一言で言えば、例えばドイツの「通則法4条以下」等は「学ばない」、ということです。
●準拠法選択等の学習範囲
・ 外国の「法の適用に関する通則法」そのものは「学ばない」。
・ 国際私法の学習に際しては、事案・設例等において、架空の「甲国国際私法」等として登場するのみ。
・ 国際私法(狭義)の学習対象は、はあくまで「国内法」(「『国際』私法」という名称から、誤解されることも多いが)。
少し気持ちが楽になりました。
外国のロースクールにおいて、日本の「法の適用に関する通則法」を学ばないのと同様ですね。
しかし、国際私法の学習に際し、外国の国際私法について「学ぶ」場面はありました。例えば、「反致」等です。念のため。
なお、国際私法は、実質法については「内外法の平等」を基本理念とするのですから、外国の国際私法については全く学ばない、とすると、(論理的にはありえる態度ではあるものの)違和感は感じるかも知れませんね。「日本法と同等」に精通すべきとするのは理想主義に過ぎるとしても。この点は、自分なりに考えてみて下さい。
(2)実質法(民事訴訟法の一部(別論)を除く)
一言で言えば、例えばドイツの「民法」等は「学ばない」、ということです。
●実質法の学習範囲
・ 外国の「民法」等そのものを学ぶことはない。
・ 国際私法の学習に際しては、事案・設例等において、架空の「甲国民法」等として登場するのみ。
・ 国際私法(狭義)の学習対象は、はあくまで「国内法」(「『国際』私法」という名称から、誤解されることも多いが)。
・ 本質的には、そもそも国際私法は、実質法の内容・その適用結果には関知しない法だから。
少し気持ちが楽になりました。
外国のロースクールにおいて、日本の「民法」を学ばないのと同様ですね。
しかし、国際私法の学習に際し、外国の実質法について「学ぶ」場面はありました。例えば、「公序」等です。念のため。
ただ、それは、「内外法の平等」に対する「例外」の場面でした。また、一般的には、結局、日本の民法等が適用されると解される問題でしたね。
なお、国際私法は、実質法については「内外法の平等」を基本理念とするのですから、外国の実質法について全く学ばない、とすると、あまりに理想に反する態度かも知れませんね。「日本法と同等」に精通すべきとするのは理想主義に過ぎるとしても。この点も自分なりに考えてみて下さい。
3.外国判決の承認・執行等
一言で言えば、例えばドイツの「民訴法118条」等は「学ばない」、ということです。
●外国判決の承認・執行等の学習範囲
・ 外国の「民事訴訟法」等(外国判決の承認・執行に関する規定)そのものを学ぶことはない。
・ 国際私法の学習に際しては、事案・設例等において、架空の「甲国民事訴訟法」等として登場するのみ。
・ 国際私法(広義)の学習対象は、はあくまで「国内法」(「『国際』私法」という名称から、誤解されることも多いが)。
・ 本質的には、そもそも「外国判決の承認・執行」の問題は、基本的には「日本において外国判決を承認・執行できるか」という一方的問題だから。
少し気持ちが楽になりました。
外国のロースクールにおいて、日本の「民訴法」(118条)を学ばないのと同様ですね。
しかし、国際私法の学習に際し、外国民事訴訟法(民訴法118条)等について「学ぶ」場面はありました。例えば「間接管轄」等です。この点は、先に触れましたね。
4.補足
日本の民法・民訴法・通則法等が「お日様」であり、外国の民法・民訴法・通則法等が「お月様」」というイメージを持ちました。なぜか、ふと「向日葵」と「月見草」のことも想い浮かべました。
当然のことながら、大学・大学院等によっては、私が「学ばない」としている事項を「学ぶ」授業等はありえます。それら授業等の意義・性質・是非(実務への貢献度・「比較法」研究との相違点・教育上の優先順位等)等は別論、以上の話は、「日本における典型的な国際私法(広義)の学習範囲」と理解して頂いて結構です。
さて、「国際私法」の学習に際し、外国法を「学ぶ」・「学ばない」の話を縷々して来ましたが、「お月様」「月見草」も、「お日様」「向日葵」同様、価値ある存在ですね。
もし、より一般的な外国法を「学ぶ」必要性・程度等について興味があれば、こちらも参照しておいて下さい。
●「外国法(向き合い方)~準拠法として」