【第25回】 養子縁組の準拠法
…というわけなんです。
離婚は身近になりつつありますが、身近な人が養子縁組をした話は聞いたことはなく、離縁となると尚更…
目次
テーマ
1.国際裁判等管轄等
● 家事調停事件の国際裁判管轄
2.準拠法選択等
● 養子縁組の準拠法
3.外国判決等の承認・執行等
● 間接管轄(家事審判事件の国際裁判管轄)
事案
● 律子の伯母A(日本人・30歳)は、B(甲国人・60歳・男性)との養子縁組により養子となり、日本に居住していた。なお、当該養子縁組は法的問題なく成立している。
● しかし、Bは、Aを日本に残したまま甲国に帰国し、現在は甲国に居住している。
● Aは、Bとの離縁を希望し、日本の裁判所において、離縁の調停の申立てをした。
本事案も、日本・甲国に跨ることから、「国際的私法関係」に属しますね。
本事案では、調停が申立てられていますので、国際裁判管轄が問題となります。
1.国際裁判等管轄等
(1)家事調停事件(普通養子縁組の離縁)
家事事件手続法
(家事調停事件の管轄権)
第三条の十三 裁判所は、家事調停事件について、次の各号のいずれかに該当するときは、管轄権を有する。
一 当該調停を求める事項についての訴訟事件又は家事審判事件について日本の裁判所が管轄権を有するとき。
二 相手方の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
三 当事者が日本の裁判所に家事調停の申立てをすることができる旨の合意をしたとき。
2 民事訴訟法第三条の七第二項及び第三項の規定は、前項第三号の合意について準用する。
3 人事訴訟法(平成十五年法律第百九号)第二条に規定する人事に関する訴え(離婚及び離縁の訴えを除く。)を提起することができる事項についての調停事件については、第一項(第二号及び第三号に係る部分に限る。)の規定は、適用しない。
● 趣旨
(家事法3条の13第1項1号が、国際家事調停事件の管轄原因を、「訴訟事件又は家事審判事件について日本の裁判所が管轄権を有するとき」とした趣旨)
「家事調停において合意に至らないときには、最終的には、訴訟又は家事審判により解決されること、また、訴訟事件又は家事審判事件の開始後も話合いによる解決が見込まれるときには、家事調停に付することも想定されることに照らし」
【内野・一問一答 149頁】
家事法3条の13第1項2号・3号については、ここでは立ち入りませんが、一読し、自分なりに趣旨を考えてみて下さい。
さて、本事案における調停につき、日本の裁判所の国際裁判管轄は認められるのでしょうか?
人事訴訟法
第二節 裁判所
第一款 日本の裁判所の管轄権
(人事に関する訴えの管轄権)
第三条の二 人事に関する訴えは、次の各号のいずれかに該当するときは、日本の裁判所に提起することができる。
一 身分関係の当事者の一方に対する訴えであって、当該当事者の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
二 身分関係の当事者の双方に対する訴えであって、その一方又は双方の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
三 身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
四 身分関係の当事者の双方が死亡し、その一方又は双方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
五 身分関係の当事者の双方が日本の国籍を有するとき(その一方又は双方がその死亡の時に日本の国籍を有していたときを含む。)。
六 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、当該身分関係の当事者が最後の共通の住所を日本国内に有していたとき。
七 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方が行方不明であるとき、他の一方の住所がある国においてされた当該訴えに係る身分関係と同一の身分関係についての訴えに係る確定した判決が日本国で効力を有しないときその他の日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき。
本事案において問題となっている離縁について仮に訴えが提起されたとすると、それは「人事に関する訴え」(人訴法3条の2柱書)に該当します。そして、伯母(A)は「日本に居住」していることから、「日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方」(人訴法3条の2第6号)にあたります。その伯母(A)から、共に「日本に居住」し「最後の共通の住所」(人訴法3条の2第6号)を有していたBに対する訴えですから、当該訴えについては日本の裁判所の国際裁判管轄が認められます。
したがって、「当該調停を求める事項についての訴訟事件…について日本の裁判所が管轄権を有するとき」(家事法3条の13第1項1号)に該当しますので、本事案の調停については、日本の裁判所による国際裁判管轄が認められます。
ただ、家事法においても、「特別の事情」(家事法3条の14)に基づく訴え却下の可能性はあります。財産関係事件(民訴法3条の9)・人事訴訟事件(人訴法3条の5)における「特別の事情」に相当するものです。
本事案においては、その適用はなさそうですが、この機会に条文を一読はしておいて下さい。なお、先程目に入ったかも知れませんが、「特別の事情」(人訴法3条の2第7号)とは異なる点、再度注意しておいて下さい。
(2)特別の事情
家事事件手続法
(特別の事情による申立ての却下)
第三条の十四 裁判所は、第三条の二から前条までに規定する事件について日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合(遺産の分割に関する審判事件又は特別の寄与に関する処分の審判事件について、日本の裁判所にのみ申立てをすることができる旨の合意に基づき申立てがされた場合を除く。)においても、事案の性質、申立人以外の事件の関係人の負担の程度、証拠の所在地、未成年者である子の利益その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが適正かつ迅速な審理の実現を妨げ、又は相手方がある事件について申立人と相手方との間の衡平を害することとなる特別の事情があると認めるときは、その申立ての全部又は一部を却下することができる。
日本の裁判所の国際裁判管轄が認められるとして、甲国法と日本法の内容が異なりうることから、次に準拠法選択が問題となりますね。
2.準拠法選択等
(1)養子縁組
法の適用に関する通則法
(養子縁組) 第三十一条 養子縁組は、縁組の当時における養親となるべき者の本国法による。(略)
2 (略)
● 趣旨
(通則法31条1項前段が、養親となるべき者の本国法を連結点として採用した趣旨)
1.「養親子の生活が営まれる地は養親の属人法国であるのが通常であって、…その国の法律が定める要件を具備することが、実際の上、必要であること」
2.「養子縁組の成立によって養子は養親の家族の構成員になること」
3.「複数の養子についても準拠法が同一となること」等
【南・解説 136頁参照】
● 単位法律関係
・ 養子縁組の成立要件(公的機関の許可の要否等を含む)
等
● 連結点
・ 養親となるべき者の本国(縁組の当時におけるもの)
● 準拠法
・ 養親となるべき者の本国法(縁組の当時におけるもの)
本事案においては、離縁が問題となっていますから、養子縁組の成立要件につき規定する通則法31条1項は、少なくとも直接的には適用されません。
逆に言えば、通則法31条1項は、間接的には離縁にも適用されることとなるのですが、それはあくまでその同項前段に限られ(通則法31条2項)、同項後段(セーフガード条項)は、なお適用されないこととなります。
後者については、(今後見る機会がなさそうですので)行き掛かり上、ここで見ておきましょう。
(2)セーフガード条項
法の適用に関する通則法
(養子縁組) 第三十一条 養子縁組は、縁組の当時における養親となるべき者の本国法による。この場合において、養子となるべき者の本国法によればその者若しくは第三者の承諾若しくは同意又は公的機関の許可その他の処分があることが養子縁組の成立の要件であるときは、その要件をも備えなければならない。
2 (略)
● 趣旨
(通則法31条1項後段が、養子となるべき者の本国法を考慮する趣旨)
子の保護
【南・解説 136頁参照】
さて、離縁については、婚姻・離婚において「条」自体が異なること(通則法24条・27条)と比較すると、同じ「条」の中の異なる「項」において規定されています。
なお、離縁と並列的に規定されている「養子とその実方の血族との親族関係の終了」についても、簡単に触れておきます。
(3)離縁等
法の適用に関する通則法
(養子縁組) 第三十一条 養子縁組は、縁組の当時における養親となるべき者の本国法による。この場合において、養子となるべき者の本国法によればその者若しくは第三者の承諾若しくは同意又は公的機関の許可その他の処分があることが養子縁組の成立の要件であるときは、その要件をも備えなければならない。
2 養子とその実方の血族との親族関係の終了及び離縁は、前項前段の規定により適用すべき法による。
● 趣旨
1.「養子とその実方の血族との親族関係の終了」
(1)「養子縁組の成立につきそれなりの要件が課されていることから、…養子縁組の成立の準拠法と同じ準拠法によらしめるのが相当」
(2)(養子縁組の成立につき)「子の本国法上の保護要件も満たす必要があることから、これによって実親の利益が担保されている」
2.「離縁」
(1)「養子縁組については、その成立から終了まで同一の法律によるのがより適切であると考えることができる」
(2)「離縁は養子縁組の成立を否定するものであるとも考えることができ、その立場からすれば、離縁の準拠法は、養子縁組の要件と整合させる必要がある」(特に特別養子型の縁組の場合)等
【南・解説 140・151頁参照】
● 単位法律関係
・ 養子とその実方の血族との親族関係の終了
・ 離縁
等
● 連結点
・ 養親となるべき者の本国(縁組の当時におけるもの)
● 準拠法
・ 養親となるべき者の本国法(縁組の当時におけるもの)
本事案においては、養子縁組当時の養親Bの本国法も現在と変わらず甲国法だったようですから、離縁についても、(その内容までは調査していませんが)準拠法は甲国法となるのですね。
国際私法の性質に照らし、今回は、甲国法の内容・その適用結果等には踏み込まず、ここまでにしておきましょう。
さて、準拠法に関する話の最後に、次の条文は一読しておいて下さい。
(4)その他の親族関係等
(その他の親族関係等)
第三十三条 第二十四条から前条までに規定するもののほか、親族関係及びこれによって生ずる権利義務は、当事者の本国法によって定める。
● 趣旨
本国法主義
現時点では、本条については、これ以上、立ち入りません。
それでは最後に、簡単に設例を見ておきましょう。
3.外国判決等の承認・執行等
【設例】
● 本事案において、養子縁組は、特別養子縁組であったとする。
● 現在、Aは、甲国の国籍を取得した結果、日本の国籍からは離脱している。
● Aは、甲国の裁判所において、当該特別養子縁組の離縁の審判を申し立て、離縁が認められた。
● Aは、当該離縁の審判が日本において承認されるのか、知りたいと考えている。
(1)間接管轄(家事審判事件(特別養子縁組の離縁))
家事事件手続法
(外国裁判所の家事事件についての確定した裁判の効力)
第七十九条の二 外国裁判所の家事事件についての確定した裁判(これに準ずる公的機関の判断を含む。)については、その性質に反しない限り、民事訴訟法第百十八条の規定を準用する。
● 趣旨
(家事法79条の2が、「その性質に反しない限り」とした趣旨)
「家事事件については、…対立当事者が存在し訴訟事件に類似した性質を有する事件もあれば、…対立当事者の存在が予定されておらず国が後見的に関与をする事件もあるなど、多様な事件の性質に応じた柔軟な承認要件の設定を許容する必要」があるため。
【内野・一問一答 159頁】
そこで、これまで同様、(準用条文として)民訴法118条を見てみますと…
民事訴訟法
(外国裁判所の確定判決の効力)
第百十八条 外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
一 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
二 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
三 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
四 相互の保証があること。
これまで同様、甲国の裁判所に間接管轄が認められるかが問題となりますね。
(そして、間接管轄の有無については、基本的には、「その性質に反しない限り」との要件について気にする必要はなさそうです。)
この点、先程「1.国際裁判等管轄等」において見た「調停」と同様、特別養子縁組の離縁の「審判」についても、(民訴法・人訴法とは別に)家事法において裁判管轄につき規定されているのです。
家事事件手続法
(特別養子縁組の離縁の審判事件の管轄権)
第三条の七 裁判所は、特別養子縁組の離縁の審判事件(別表第一の六十四の項の事項についての審判事件をいう。以下同じ。)について、次の各号のいずれかに該当するときは、管轄権を有する。
一 養親の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
二 養子の実父母又は検察官からの申立てであって、養子の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
三 養親及び養子が日本の国籍を有するとき。
四 日本国内に住所がある養子からの申立てであって、養親及び養子が最後の共通の住所を日本国内に有していたとき。
五 日本国内に住所がある養子からの申立てであって、養親が行方不明であるとき、養親の住所がある国においてされた離縁に係る確定した裁判が日本国で効力を有しないときその他の日本の裁判所が審理及び裁判をすることが養親と養子との間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき。
● 趣旨
(家事法3条の7第3号)
「我が国が養親及び養子にとって、衡平な法廷地であるということができるほか、我が国との関連性も認めることができると考えられるから」
【内野・一問一答 108条】
本設例においては、現時点ではBに加え伯母(A)も甲国人ですから、日本の裁判所の国際裁判管轄(間接管轄)(家事法3条の7第3号参照)が認められ、本設例における審判は日本において承認されることになると理解しましたが、正しいでしょうか?
…更なる検討をしてみて下さい。
「国籍」というものについて、もう少し学習する必要があるかも知れませんよ。
まとめ
1.国際裁判等管轄等
● 家事法3条の13
● 人訴法3条の2第6号
● 家事法3条の14
2.準拠法選択等
● 通則法31条1項前段・後段・第2項
● 通則法33条
3.外国判決等の承認・執行等
● 家事法79条の2
● 民訴法118条1号
● 家事法3条の7第3号
最後に、甲国法等の外国法への向き合い方については、こちらを参照しておいて下さい。
●「外国法(向き合い方)~準拠法として」
さて、それでは、今日はここまでにしておきましょう。何か言い残したことはないですか?
「言い残した」と言えば…
【第26回】 遺言の準拠法