刑事実務基礎(事実認定)~国際私法の範囲外

「…刑事法等の公法の抵触問題と私法のそれとはその性質が大いにちがうものであるから、…国際刑事法は国際私法の範囲から除外するのが妥当である。」
(江川英文『国際私法(改訂)』(有斐閣、1957)17頁)

【留意点】

1.構成要件要素の定義を書く。
2.事実に対して、評価を加える。
(1)重要なもの(推認力の大きいもの)から(間接事実の摘示等)。
(2)反対方向の事実も指摘する。刑法的に。スジ(本質)。
3.当てはめる。
4.結論(被告人が犯人でないとしたら合理的説明が不可能又は極めて困難(最判平成22年4月27日③)、合理的な疑いを容れない程度(最判平成19年10月16日①)等の表現)
●表現:「可能性も否定できない。」、「相応の推認力がある。」、「・・・と整合する事実である。」、「相当程度推認される。」、「可能性は極めて低いといえる。」、「およそあり得ない。」、「矛盾しない事実と言える。」等
●考慮要素を挙げ、事実認定(あてはめのみでも最低限OK)。
●(軽く解釈し)規範を書く。法律論の枠組み設定。
●犯人側の事情・被疑者・被告人側の事情から事実認定。
●供述の信用性(前又は)後でまとめて検討。
●B:客観面(危険性)→主観面(認識・認容)
●起訴状の「公訴事実」は、刑法の条文(故意・未遂等を含む)に沿って記載することで必要十分。なお、刑訴法256条3項後段参照(当然)。

事実と証拠

● 要証事実
● 直接証拠
● 間接事実
● 間接証拠
● 補助事実
● 補助証拠
● 状況証拠:間接証拠+間接事実
・ 実務上、要証事実・直接証拠以外の総称として使用されることも多い。

事実認定の方法

● 争点(争いのある要証事実)・証拠構造を踏まえた事実認定

● 判断順序
1.直接証拠(信用性の判断が重要)

存在しないor(存在するも)信用性なし

2.各間接事実の特定・認定・評価(供述証拠の信用性の判断が非常に重要)
3.間接事実の総合評価(被告人が犯人でないとすれば合理的説明が不可能又は極めて困難である事実が必要(最高裁平成22年4月27日))
4.被告人の供述(上記を経て認定された事実が覆らないかを検討)

● 立証責任

● 立証の程度

殺人(殺意)

●殺意とは、殺人罪(刑法199条)の故意、即ち人の生命断絶の危険の認識・認容である。

● 状況証拠
・動機の有無・程度
・凶器の種類(殺傷能力等)
・凶器の用法
・殺害現場の状況
・殺害行為の態様
・創傷の部位(身体の枢要部(含む顔面)か否か等)
・創傷の程度
・相手方の行為の態様

・犯行時の行為者の言動
・犯行後の行動(追跡・追撃・傍観(-)・茫然自失し立ち尽くし(+)等。なお、救命行為は、殺意否定方向ではあるが、行為後の翻意も十分ありうる。)

● 状況証拠の総合評価

●参考:一般に、動機よりも客観的な要素を重視すべきと考えられている。

過失犯

●検討:過失が規範的構成要件要素である等、事実認定と構成要件的評価とが相当程度重なり、刑法上の処理に近い。
●認識:予見可能性があれば、基本的には予見義務違反は肯定されるはず(それが旧過失論の問題でもあり)。次に、回避可能性は、予見可能性と異なり、行為の問題であるから、不合理な拡大をし難く、有無の判断が容易(なければその時点で無罪)。したがって、特別な事情がない限り、(1)予見可能性を前提にした、(2)回避義務違反を丁寧に認定すれば足りる。よって、刑法の学習に尽きる。一般人を基準とすること、及び責任過失は別途、ということだけは改めて注意。

●記載例:「…に従事していた者であるが、…するに当たり、…なのであるから、…する(業務上の)注意義務があるにも関わらず、これを怠り、…した過失により、…して、…により死亡させたものである。」

●状況証拠
・行為者の知識・能力等(専門性等)

共謀共同正犯

●(共謀共同正犯における)共謀とは、犯罪を(1)自己の犯罪とする意思(正犯意思)、及び(2)共同実行することについて合意(意思の連絡)があること。

● 状況証拠
・被告人(共謀者)と実行行為者との関係
・前提認識
・犯行の動機
・犯罪の性質・内容
・意思疎通行為の内容・程度
・意思疎通行為時の状況・そこに至る過程
・共謀者による行為の内容・役割・寄与(重要性・本質的か)
・犯行前後の行為(隠蔽・非難せず等)
・獲得した利益(分け前の割合等)

● 状況証拠の総合評価

正当防衛

●「急迫」とは、法益侵害の危険が切迫していること。

● 「急迫不正の侵害」

● 「防衛するため」
(急迫不正の侵害を認識しつつ、それを避けようとする単純な心理状態)
・行為者と相手方との関係性
・行為前までの経緯(加害の動機・挑発の有無等)
・侵害の予期の程度
・行為者の反撃準備の内容・程度
・相手方の行為の態様・程度
・侵害対応の選択肢の内容・難易度・有効性
・反撃行為の意図(加害か(急迫性があっても、これがあると否定)・護身か)・態様・程度
・反撃前・後の言動

● 「やむを得ずにした」
・年齢・性別・体格・能力
・2つの観点(必要か?、相当か?(行為・結果(法益)))●結果は関係ない、という例の話があるので、結果(法益)については著しく均衡を欠く場合に限るのだろう(補充性不要は勿論)。

同意殺人

●「承諾」は、自己を殺害することにつき真意に基づき同意すること。

●公訴事実:殺人罪(刑法199条)→真偽不明→承諾殺人罪(202条後段)(理由:利益原則(刑訴法336条))

● 「嘱託」・「承諾」(202条後段)
・被害者の生活状況(物的(生活苦等)・精神的(人間関係の悩み等))
・被告人と被害者との人的関係(親族・愛人・親友等)
・被害者の動機
・実行行為前の被害者の精神状態・言動(身辺整理、準備、未遂等)
・実行行為時の被害者の精神状態・言動(抵抗等)
・実行行為後の被告人の言動

窃盗(占有)

● 「占有」:客観的要件(占有の事実)・主観的要件(占有の意思)につき、被害品の形状・性質(価値・軽重・用途等)を踏まえつつ、社会通念に基づき総合的に判断する。

● 公共的空間における置き忘れの場合(考慮要素)
・時間的・場所的近接性
・場所的見通し
・場所の状況(道路・商業施設内・公園等)
・被害者の記憶・行動
・目撃情報等

窃盗(犯人性)

● 窃盗の特徴
・ 直接証拠により認定できるケースは少ない。よって、状況証拠が重要となる。

● 近接所持の法理
1.意義・規範
(1)窃盗被害の発生時点と近接した時点において、盗品を所持していた者は、
(2)合理的な弁解(例:その入手経路等につき)がない限り、当該窃盗の犯人として推認されるという理論
2.根拠
窃盗被害発生直後においては、
(1)被害品は窃盗犯人が所持している可能性が高いという経験則、及び
(2)窃盗犯人でない者は、被害品の入手方法を具体的に弁明できるはずであるという論理則
3.注意点
・ まず、被害品と所持物との同一性の認定。それから、犯人側の事情。そして、被疑者・被告人側の事情。
・ 時間帯・時間的間隔・被害品の性質(流通性等)・被告人の経歴等により、推認が破られることもままある。
・ 被告人による合理的な弁解があるか否かが、一つの重要な判断要素となる。窃盗以外による入手可能性があれば犯人と認定できない。
・ 「…等(間接事実)が偶然重なることは想定し難いため、Xが犯人」ではなく、「Xが犯人でないなら、…等(間接事実)が偶然重なることは想定し難い」の対偶。即ち、「…等(間接事実)が偶然重なることから、Xが犯人と推認される」等と。

● その他
・ 犯人性(一般)と同様の点が問題となる。 

強盗(暴行・脅迫)

●犯行抑圧する暴行・脅迫(客観的に判断する)

● 考慮要素
・被害者の置かれた状況(運転中等)
・行為の態様・程度(凶器を握持していたか否か、暴行の対象部位等)
・行為の場所(屋内か屋外か)・時刻(昼か夜か等)・状況(救済しうる第三者の存在等)
・被告人の人数・性別・年齢・体格・能力・外見
・被害者の人数・性別・年齢・体格・能力
・被告人と被害者との関係性
・被害者の負傷の内容・程度
・被害者の言動(強気・反抗心等)

盗品等罪(知情)

●知情(行為の客体が盗品等罪による領得物であることの認識)は、未必的・抽象的なもので足りる。

● 物
・性質
・形状
・種類
・数量

● 取引(客観面)
・取引慣行
・時刻・場所
・態様
・取引価格・報酬の多寡

● 取引(主観面)
・相手方(落ち着かず。処分理由等の説明がない・不合理。)
・被告人(疑問を呈した。説明を求めない。)

● 取引前後
・交渉頻度
・偽装工作(隠匿・変更・転売)

● 取引当事者
・関係性
・相手方(年齢・職業・経歴・所有物の概要等)
・被告人(年齢・職業・経歴・所有物の概要等)

犯人性(一般)

●自白・反抗目撃証言(直接証拠)があり、かつそれらに信用性があれば、犯人性は肯定される。●認識:が、ほぼない、のだろう。

1.犯罪前
(1)被告人の属性(知識(土地勘)・能力等)
(2)凶器・道具等の所持
(3)動機
(4)言動(準備・計画等の暴露)
(5)同種前科・事実

2.犯罪時
(1)犯行の機会(時間・場所・排他性)cf.アリバイ
(2)犯行方法(個性・遂行可能性)
(3)痕跡(足跡(あまり)・指紋・頭髪・血液・DNA等)⇔犯行時以外の機会に残った可能性に注意
(4)遺留物件(凶器・道具・落し物等)⇔犯行時以外の機会に残った可能性に注意
(5)犯人の特徴(服装、体格、容姿(年齢等))

3.犯罪後
(1)被害品・凶器・道具等の所持
(2)犯罪の証跡(硝煙反応・血痕・負傷・金回りの好転・盗品等の所持等)cf.近接所持の法理については重要性に照らし独立項目とし別途。
(3)痕跡(DNA・臭気等)cf.自然的関連性
(4)被告人の精神面の現れ(逃亡・罪証隠滅等)
(5)秘密の暴露
(6)隠蔽(利益供与、アリバイ工作、罪証隠滅等)

供述の信用性

● 供述の特徴
1.総論
・ 客観的証拠・事実の質・量には限界があり、供述証拠の信用性が問題となることが多い。特に犯人性につき。
・ 人の知覚・記憶・叙述の正確性の限界から、一部について整合しない場合はままある。ポイントは要証事実。
2.自白
・ 不利益供述であり、信用され易い。重要証拠探索の端緒となる。偏重・強要の危険あり。信用性につき慎重な吟味が必要。その他の証拠の後に検討。
・ 特に、犯人性が争点、かつ自白が有力な証拠である場合に問題。
・ 故意は主観的要素。認定できる直接証拠は、被告人の自白のみ。
3.共犯者供述
・ 引っ張り込みの危険あり。利害得失に着目。例えば、自らの罪を軽くする目的、又は上位者を庇う目的等。恨み、取り調べの負担を軽く等も一応。
4.第三者供述
(1)自白・共犯者供述のような類型的な危険性は小さい。しかし、誤解は勿論、虚偽の可能性も勿論ある。
(2)被害者供述については、一般的には虚偽等の動機がなく、体験に基づく信用性もある。もっとも、狼狽等による誤認等もありえる。

● 視点
1.論理則・経験則との整合性
2.客観的証拠・事実との整合性・複数名による供述
・ 特に自白で重視されている。
3.経緯・時期・変遷
・ 自白の場合は、取調べの初期段階であれば、信用性が高い。
・ 暗示・誘導に注意
4.具体性・合理性・迫真性(検面調書ではあるのが普通)
5.秘密の暴露
・ 自白について、誘導等がなかったかに注意。
6.主体と事件・被告人との関係(利害関係)
・ 被害者の場合、犯罪不成立とならないよう、被告人に不利な虚偽の供述をしたり、逆に有利な供述をしないことがありえる。
・ 被害者の場合、被告人との間に利害関係(交際・金銭関係等)があれば、両者の供述が対立する場合がある。
7.供述者の能力(知覚・記憶・叙述)
・ 特に犯人識別供述において。
・ 知覚(時間。位置。明暗。遠近。視力・性格・心理状態・意識の高さ。犯行も目撃したことによる犯人への注目度・被告人や被害者との面識の有無・被告人や被害者の特徴の有無等)
・ 記憶(「知覚」と同様の事項・経過時間・現場の状況等)
・ 叙述(いつ、いつのことを。選別手続以前の詳しさ・断定度合い等。目撃者同士の情報交換の有無・いわゆる写真面割り・面通しに際しての「単独面割り」の有無等、暗示・誘導に注意。写真・似顔絵等による記憶の固定化(記憶の減退・変容を防ぐプラス面)と記憶の入れ替わり(それが新たな「記憶」となるマイナス面)に注意。)
8.全体的・部分的評価
・ 恣意的な採否は不可。
・ 少なくとも、客観的証拠・事実に反する供述をした主体の信用性は低下。
9.その他
・ 嘘もあり得る。
・ 態度

●参考:ある供述の信用性を確認し、それと一致することを、別の供述の信用性判断に用いることもある。

賄賂

・職務の実態(役職、業務内容等)
・請託の有無
・収受の時期・態様
・便宜を図った等
・便宜・利益の金額・価値
・当事者の関係性
・その他(恐喝?、社会的儀礼?等)

常習性

●常習賭博罪(刑法186条1項)。身分。その発現としてなされる犯罪行為。その他の法律における常習性も同様。
・前科:種類、回数、間隔、類似性、その他の前歴
・行為:時期、回数、態様
・性格等

薬物

●刑法の議論を前提に。
・認識:隠匿、密行、報酬の高低
・知識・経験:個人的経験、報道等
・物:形状等。注射器等。体験。関係者の言動。

ワヴィニー

日本の刑事法(刑事実務基礎(事実認定))は「全く知らない」というのもマズイかと考えまして、試みに…

律子

「『全く知らない』訳ではない」ということだけは、かろうじて理解できました(笑)。

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