【予備試験】国際関係法(私法系)令和5年

問題

[国際関係法(私法系)]

 Aは、いずれも日本在住の甲国人である両親の間の子として日本で生まれ、ずっと日本で暮らしてきた。大学生になったAは、夏季休暇を利用して、一人で甲国内を1か月間旅行する計画を立て、初めて甲国を訪れた。Aは、かつて両親から聞いた断片的な情報に基づき、甲国は夏でも比較的過ごしやすい気候であると思い込んでいたが、実際に甲国に渡航して滞在してみると、連日、想定していなかった厳しい暑さに見舞われたため、この暑さへの応急対策として、甲国の家電小売店Pで手持ち式小型扇風機α(以下「α」という。)を購入した。αは、国際規格に準拠した方式のケーブル・充電器により充電するタイプの内蔵バッテリーを動力源としており、Aがスマートフォン用に日本から持参していた携帯充電器によっても充電することができる上、大出力の駆動モーターによる強力な送風機能を備えているなど、利便性や使い心地の面で、Aにとって満足のいくものであった。そこで、Aは、甲国滞在を終えて日本へ帰国するに際し、αを引き続き利用することとして日本へ持ち帰った。
 Aは、帰国後間もなく、全国的に最高気温の観測記録が更新されるほどの猛暑の昼下がり、αを使用しながら、京都の観光地区に近接する大学の図書館に向かって歩いていたが、観光客で混み合う道に差し掛かったところで、突然、αが動作を停止してしまった。不審に思ったAが立ち止まってαの状態を確認すると、本体内部から白煙が上がっていたため、思わずαを放り投げたところ、その直後、αは、路上に落下する前に空中で破裂した(以下、このαが破裂した事故を「本件事故」という。)。
 本件事故によって周囲に飛散したαの破片の一部は、たまたま近くを歩いていた東京からの観光客Bの右目の付近に当たり、Bは、この負傷により右目の視力を失った。
 甲国の隣国である乙国の法人で、αを製造したQ社は、日本を含む数か国で本件事故と同様の破裂事故が発生していることを把握し、一連の事故の原因を究明するために内部調査を実施した。その結果、一連の事故が発生したαに使用されている内蔵バッテリーは全て、複数のサプライヤーの一つである日本法人R社東京工場製のバッテリーβ(以下「β」という。)であり、極度に高温多湿となる条件下でβを使用した場合に、まれに膨張・破裂するとの実験結果を得た。
 なお、Q社は、営業所、工場等の拠点や財産を全て乙国内に置き、他国では営業活動も行っておらず、αについても、その設計・製造から販売までを全て乙国内でのみ行っている。もっとも、甲国や日本などの他国の業者が、乙国内で販売されているαを仕入れて、自国の消費者向けに販売することは広く行われている。Q社も、そのような他国での販売がαの売上げに大きく貢献していることを認識して、αの全ての製品には、甲国語や日本語を含む多言語で並列的に記述した取扱説明書を一律に同梱して販売している。
 以上の事実を前提として、以下の設問に答えなさい。

〔設問1〕
 αの製造者がQ社であることを認識したBは、Q社を被告として、製造物責任法第3条に基づき、本件事故によって被った損害の賠償を求める訴え(以下「本件訴え」という。)を東京地方裁判所に提起した。
 〔小問1〕
  本件訴えについて、日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるかどうかについて論じなさい。
 〔小問2〕
  本件訴えについて、日本の裁判所の国際裁判管轄権は認められるものとする。この場合において、BのQに対する損害賠償請求について、いずれの国の法によって判断されるべきかを論じなさい。

〔設問2〕
 本件事故を含む一連のαの破裂事故の原因がβにある可能性が高いと考えたQ社は、R社に調査を求めたところ、βの特定の製造ロットの製造過程において、膨張・破裂の原因となる微小な金属異物が混入していたことが判明した。そこで、Q社は、損害賠償金の支払やαの回収費用の支出により生じた多額の損失について、R社に対し、応分の負担を求めたが、Q社とR社との間で、負担割合をめぐる交渉は決裂した。
 Q社とR社との間の取引は、R社がQ社に対して毎年一定数量のβを供給する旨の契約(以下「本件契約」という。)に基づくものであった。本件契約は、2018年1月、それぞれの本社スタッフによる交渉の結果として締結されたものであり、本件契約には、「この契約は、日本法により解釈され規律される。」との条項があった。
 Q社は、R社に対し、本件契約上の債務の不履行に基づき、損害の賠償を求める訴えを東京地方裁判所に提起した。このQ社の請求について、裁判所は、「国際物品売買契約に関する国際連合条約」(以下「ウィーン売買条約」という。)を適用して判断する内容の本案判決を言い渡したが、乙国はウィーン売買条約の締約国ではなかった。
 上記判決において、裁判所が、Q社の請求についてウィーン売買条約を適用して判断したのはなぜか。理由を説明しなさい。

【出典:法務省ウェブサイト (https://www.moj.go.jp/content/001402753.pdf)】

律子

ひとつ(Whereas⁉)。本件訴えは、東京地方裁判所に提起されているが、「日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるかどうか」を問われているので、2nd STEPたる国内裁判管轄(例:不法行為地たる京都地方裁判所の管轄ではないの?いや!義務履行地の裁判管轄なので東京地裁か?ただ…、持参債務の原則(民法484条1項)の下、それは不法行為者側に不利に過ぎる(実質的には「原告」住所地管轄)ではないですか???)等については論じる必要なし。

ひとつ(Whereas⁉)。「裁判所が、Q社の請求についてウィーン売買条約を適用して判断した」理由の1つには、当然、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるから、も含まれるが、その点について殊更に論述する必要なし。日本の「裁判所」が主体として設定され、かつ本案判決まで言い渡したことを前提にしていると読め、また(設問1のように)管轄に特化した記載がないことから、その点は言わずもがなで記述不要、と理解するのが自然。仮に書くとしても、軽く、でOK。ですらないだろう。

ひとつ(Whereas⁉)。昨年(令和4年)は準拠法選択(家族法分野)のみが、そして今年(令和5)年は「3点セット」(国際裁判管轄(財産権上の訴え)・準拠法選択(財産法分野)・国際取引法)が問われた。来年(令和6年)はどうなるのだろう?等と考えている暇はない。

1.設問1

(1)小問1

〔設問1〕 
 αの製造者がQ社であることを認識したBは、Q社を被告として、製造物責任法第3条に基づき、本件事故によって被った損害の賠償を求める訴え(以下「本件訴え」という。)を東京地方裁判所に提起した。
 〔小問1〕
  本件訴えについて、日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるかどうかについて論じなさい。

ア.結果発生地

ワヴィニー

国際裁判管轄(財産権上の訴え)については、民訴法3条の2以下の規定を、順次チェックする必要がありますね。

【民事訴訟法】

(被告の住所等による管轄権)
第三条の二 裁判所は、人に対する訴えについて、その住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合にはその居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には訴えの提起前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)は、管轄権を有する。
2 裁判所は、大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人に対する訴えについて、前項の規定にかかわらず、管轄権を有する。
3 裁判所は、法人その他の社団又は財団に対する訴えについて、その主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき、事務所若しくは営業所がない場合又はその所在地が知れない場合には代表者その他の主たる業務担当者の住所が日本国内にあるときは、管轄権を有する。

律子

Q社については、会社なので「法人」(民訴法3条の2第3項)である。
そこで、基本的条文(いわゆる被告住所地原則に基づく規定)である民訴法3条の2第3項を見ると、主たる「事務所又は営業所」か、「代表者その他の主たる業務担当者の住所」が日本国内にないといけません。

しかし、「Q社は、営業所、工場等の拠点や財産を全て乙国内に置き、他国では営業活動も行っておらず」ということなので、民訴法3条の2第3項は使えません。

そこで、次に民訴法3条の3以下を見ると…

民事訴訟法】

(契約上の債務に関する訴え等の管轄権)
第三条の三
次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定めるときは、日本の裁判所に提起することができる。
一~七 (略)

八 不法行為に関する訴え 不法行為があった地日本国内にあるとき
(略)同号括弧書き(後述)

九~十三略)

● 趣旨
(民訴法第3条の3第8号が「不法行為があった地」(「不法行為地」)を国際裁判管轄原因とした趣旨)

不法行為があった地には訴訟資料、証拠方法等が所在していることが多く、また、不法行為があった地での提訴を認めることが被害者にとっても便宜」である点等にある。

【佐藤=小林・一問一答 68頁参照】

●「不法行為があった地」

加害行為が行われた地(「加害行為地」)の他、 加害行為の結果が発生した地(「結果発生地」)も含まれる

【 佐藤=小林・一問一答 69頁参照】

律子

結果発生地についても前述の趣旨が妥当することから、「不法行為地」には結果発生地も含まれる、と理解しました。

Bは日本(京都)における本件事故により右目を負傷し視力を失った。少なくとも結果発生地は日本にあるから。日本の裁判所の国際裁判管轄が認められそうです。

ワヴィニー

ただ、「不法行為」についての「行為地」・「結果発生地」を論じる前提として、そもそも本件事故が「不法行為」に該当すると何故判ったのですか?

「不法行為」については、実質法の要件事実(請求原因事実)に具体的事実を一つ一つあてはめた上で、成立・不成立を判断するのですよね?

本案審理の結果として「不法行為」があったか否かが決まるのに、国際裁判管轄の判断の段階での「不法行為があった」とする認定は、先走りに思われますが。

律子

???

法廷地(国際裁判管轄)が決定されると、当該法廷地の国際私法が適用され、その結果として実質法が選択される。当該実質法が適用される結果、本件事故が「不法行為」か否かが決まることになる…

しかし、法廷地(国際裁判管轄)を決定するためには、「不法行為地」(民訴法第3条の3第8号)に含まれる「不法行為」の成否を決める必要があり、そのためには、法廷地国際私法により実質法が選択・適用されなくてはならない…

いわゆるロンリ・テキ・ジュンカーン!(論理的循環)

ワヴィニー

…(「α」或いは「β」同様!?)壊れ(かかっ)ていますね。

それはさておき、少なくとも日本の国際私法においては、ご指摘の「論理的循環」に陥るのではないかということが、議論されているようです。

イ.管轄原因事実

● 「不法行為があった」
(民訴法3条の3第8号本文)
どの程度の立証を要するのか?請求原因事実の証明まで要求することは、「論理的循環」に陥りかねない(国際裁判管轄の決定と実質法の適用(結果)との前後関係が決まらない)ため、問題となる。

・判例(最高裁平成13年6月8日第二小法廷判決)●イメージ:「狭く深く」
「原則として, 被告が…した行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りる」
【理由】
「この事実関係が存在するなら, 通常, 被告を本案につき応訴させることに合理的な理由があり, 国際社会における裁判機能の分配の観点からみても, 我が国の裁判権の行使を正当とするに十分な法的関連があるということができる」

・学説(多数説)●イメージ:「広く浅く」
不法行為の成立要件全般につき、一応の証明があれば足りるとする説
(違法性・故意過失等の証明まで必要とするが、その程度は、本案における証明度よりも低くても構わないとする説)

律子

ここでは、最高裁判例によることとする。実務家登用試験たる司法試験予備試験の問題検討であることから。

本件においては、「本件事故によって周囲に飛散したαの破片の一部は、たまたま近くを歩いていた東京からの観光客Bの右目の付近に当たり、Bは、この負傷により右目の視力を失った。」とのこと。なので、少なくともαを製造・販売したQ社の行為により、原告たるBの右目の視力(身体(の健康))という法益について損害が生じたと認められる。

よって、本件事故は「不法行為」(民訴法3条の3第8号本文)にあたる。

ワヴィニー

念のためですが。
Q社の調査結果によれば、「一連の事故が発生したαに使用されている内蔵バッテリーは全て、複数のサプライヤーの一つである日本法人R社東京工場製のバッテリーβ(以下「β」という。)であり、極度に高温多湿となる条件下でβを使用した場合に、まれに膨張・破裂するとの実験結果を得た。」とのこと。

そうすると、Bに対しては、R社も法的責任を負う可能性がありますね。もっとも、そうだからといって、B・Q社間の関係において、Q社にはβについての違法性・故意過失等が認められない、ということにはなり難いでしょう。Q社は、R社(を含む複数のサプライヤー)のに対し各種部品の製造委託をし、事業を主導している者(完成品たるαのメーカー)なのですから。よって、仮に学説(多数説)によっても、おそらく結論は同じでしょう。

以上のような次第ですので、本論点については、その結論が事案の結論まで左右することは想定し難く。仮に触れるとしても軽く、でしょう。

これは聞き流してもらって結構ですが。

【補足】
設問2において、「本件事故を含む一連のαの破裂事故の原因がβにある可能性が高いと考えたQ社は、R社に調査を求めたところ、βの特定の製造ロットの製造過程において、膨張・破裂の原因となる微小な金属異物が混入していたことが判明した。」とあることから、その時点で初めてR社の責任が認定されうる状況とはなる。もっとも、Q社が、そのように「可能性が高いと考えた」点は自然な話であり、現時点(設問1)においても、国際裁判管轄についての弁論が進む中、例えばR社の存在・行為等にも焦点が当たり、Q社による不法行為の成立要件全般について一応の証明がされうる状況にあると言えるであろう。

律子

さて、民訴法3条の3第8号の本文については理解できましたが、同号には括弧書きがありますね。

(契約上の債務に関する訴え等の管轄権)
第三条の三
次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定めるときは、日本の裁判所に提起することができる。
一~七 (略)

八 不法行為に関する訴え 不法行為があった地が日本国内にあるとき
外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときを除く。)。

九~十三略)

● 趣旨
(第3条の3第8号括弧書きが、加害行為地が外国にある場合の例外を定めた趣旨)

結果発生地における「被告の応訴の負担が大きくなり、当事者間の衡平を欠く」点、及び、このような場合、結果発生地に「訴訟資料、証拠方法等が所在している可能性はそれほど高くないと考えられ」る点にある。

【 佐藤=小林・一問一答 70頁参照】

● 「予見」の対象

法廷地(場所)を画する国際裁判管轄の問題として、不法行為の結果発生自体(内容・規模等)ではなく、結果発生場所(どこで結果が発生するのか)である。

● 「予見」可能性の基準

「通常」とあることから、 加害者自身ではなく、加害者と同様の状況に置かれた一般人を基準とする。

律子

これを本件について見ると、Q社は、その拠点・財産・営業活動の全てが乙国内にとどまり、αについても、設計・製造・販売の全てを乙国内でのみ行っている。よって、加害行為は乙国で行われている。そして、結果たる本件事故は京都で発生した。

よって、「外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合」には該当します。

しかし、甲国・日本などの業者が乙国内でαを仕入れ自国の消費者向けに広く販売しており、Q社も、それがαの売上げに大きく貢献していることを認識して、「αの全ての製品には、甲国語や日本語を含む多言語で並列的に記述した取扱説明書を一律に同梱して販売している。」とのこと。それと同様の状況に置かれた一般的な企業であれば、少なくとも日本においてαに係る事故、即ち不法行為が発生することについて、通常予見可能です。
(なお、現時点(設問1の検討段階)では(またその後も)、Bは、Q社側たるR社についての事情(R社・βの存在・概要等)については、認識がないと考えられる。しかし、その点について訴訟資料・証拠(R社・β関連)は日本に存在する(なお、事故品αやその仕様に係る固有の証拠は日本にはないであろう。)。よって、訴訟資料・証拠資料に関する趣旨(前述)からも、かかる結論は正当化される。)

よって、本件事故は、「日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったとき」にはあたらない。

したがって、民訴法3条の3第8号括弧書きの適用はなく。本文が適用されます。

ワヴィニー

これは聞き流してもらって結構ですが。

【補足】
ちなみに、「極度に高温多湿となる条件下でβを使用した場合に、まれに膨張・破裂するとの実験結果」があるようです。

ただ、Aは、「甲国は夏でも比較的過ごしやすい気候であると思い込んでいたが、実際に甲国に渡航して滞在してみると、連日、想定していなかった厳しい暑さに見舞われたため、この暑さへの応急対策として」αを購入したぐらいですので、Q社も「甲国はさほど暑くない。」と認識していた可能性はありますね。なお、一口に「隣国」と言っても、当該隣国の地理的条件(内陸国かいわゆる島国か、そもそも広大な国で一概には言えないか否か等)、或いは相互の位置関係(東西南北いずれに位置するか、海を隔てているのか等)次第では、気候について十分理解が及んでいないことはありえましょう(律子さんが、中国・韓国の気候について、詳細に語れないであろうことと同様に。)。

また、本件事故当日は「全国的に最高気温の観測記録が更新されるほどの猛暑の昼下がり」だったので、Q社としては、日本は(確かに暑いが)今年ほどではない、と認識していた可能性もあります。

要するに、甲国では「応急対策」(が必要な程の厳しい暑さ)、及び日本では「観測記録が更新されるほどの猛暑」という特殊事情があったことから、Q社にとっては、甲国も日本も、事故発生場所としては想定外だった可能性はあるように思われます。

場所に関する予見可能性を問題にする以上は、「場所」の性質としての気候は、十分に考慮されるべき、と考えられますが。
ただ、その点は、仮に触れるとしても軽く、でしょうか。日本は勿論、甲国も、少なくとも「寒い国」ではない(かなり暑い日もある)であろうことから。

律子

それはさておき、「αは、国際規格に準拠した方式のケーブル・充電器により充電するタイプの内蔵バッテリーを動力源としており、Aがスマートフォン用に日本から持参していた携帯充電器によっても充電することができる」とのこと。その点も、乙国に止まらず、αが国際的に流通しうる事情と言えますね。

ワヴィニー

ただ、その点は、外国から乙国内に向けてのインバウンド旅行者(例:A等)の便宜を図っているに止まる(外国における販売のためではない)、或いはそもそも甲国の「国内」専用規格が存在しないため不可避的にそうなっているだけ、等の可能性も論理的にはありえますね。

本件の事情から、そもそも本件事故の原因はβ(充電器ではない)と合理的に推認できそうですし、その点は重視する必要はない事情に思われます。

律子

なお、被告Q社の応訴による管轄権(民訴法3条の8)も生じ得ますが、前述の通り、Q社は、その拠点・財産・営業活動の全てが乙国内のみにとどまります。国際的に活動する法人ではないことから、少なくとも国際裁判管轄単体の問題(設問1・小問1)として見れば、日本で応訴する可能性は低いと考えるのが合理的でしょうね。

本問では、そもそも日本の裁判所の国際裁判管轄が肯定されるのですから、その点を論じる実益はなく。説明は割愛をしていただいて結構です。

ということで、本件訴えについて、日本の裁判所の国際裁判管轄権(不法行為)は認められることから、最後に念のため、「特別の事情」(民訴法3条の9)についてチェックしておきます。

ウ.特別の事情

(特別の事情による訴えの却下)
第三条の九  裁判所は、訴えについて日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合(日本の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意に基づき訴えが提起された場合を除く。)においても、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、その訴えの全部又は一部を却下することができる

● 趣旨(民訴法3条の9)

国際裁判管轄が問題となる事案において裁量移送(民訴法17条)の制度がないことに照らし、訴えの全部又は一部却下により、当事者間の衡平又は適正かつ迅速な審理の実現を図る

【佐藤=小林・一問一答 157・158頁参照】

律子

以上において触れた事情の他、本件において「特別の事情」は認められません。

エ.結論

ワヴィニー

結論は?

律子

本件訴えについて、日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められます(民訴法3条の3第8号本文)。

ワヴィニー

次に準拠法選択の検討に入りましょう。

不法行為の国際裁判管轄が認められる、ということですから、その原則規定である通則法17条から見てみましょう。

(2)小問2

 〔小問2〕
  本件訴えについて、日本の裁判所の国際裁判管轄権は認められるものとする。この場合において、BのQに対する損害賠償請求について、いずれの国の法によって判断されるべきかを論じなさい。

ア.不法行為

(不法行為)
第十七条 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。

律子

「不法行為」と言えば、まずは通則法17条。

それは解っているが、その趣旨は…

ワヴィニー

現時点では、条文を一読し、原則として、「結果が発生した地」(本文)、例外として、「加害行為が行われた地」(ただし書き)の法が適用されうる、という点のみ認識しておけば足ります。

というのも、本件訴えは、「製『造』物責任」法第3条に基づくものとのこと。
当該責任に類する「生『産』物責任」についての特則として、通則法17条の次に同18条が置かれており、その冒頭において、「前条の規定にかかわらず」とされています。

通則法の条文構造上、そちらから検討する必要がありますから。

イ.生産物責任

(生産物責任の特例)
第十八条 前条の規定にかかわらず生産物(生産され又は加工された物をいう。以下この条において同じ。)で引渡しがされたものの瑕疵により他人の生命、身体又は財産を侵害する不法行為によって生ずる生産業者(生産物を業として生産し、加工し、輸入し、輸出し、流通させ、又は販売した者をいう。以下この条において同じ。)又は生産物にその生産業者と認めることができる表示をした者(以下この条において「生産業者等」と総称する。)に対する債権成立及び効力は、被害者が生産物の引渡しを受けた地の法による。
(略)ただし書き(後述)

● 趣旨
(「前条の規定にかかわらず」とし、通則法17条の特則を設ける必要性)

【本文】
「生産物は, その性質上生産者の意図とは関係なく世界中を転々流通する可能性がある」。

・「結果発生地が過度に広がるとともに, それが偶然に決定される可能性があり, 生産業者にとって酷な結果が生じ得る」。

・「被害者にとっても思いがけない地の法が準拠法となる場合も生じ」る。

【但書】
後述。

● 趣旨
(「引渡しを受けた地の法」(通則法18条本文)による趣旨)

・ 「生産物責任の本質にかんがみれば, 生産業者の行為を不法と評価する規範は市場地の法によるとすることが適切」

・ 「市場地は, 生産業者と被害者との接点であることから, 市場地の法は, 双方にとって中立的かつ密接に関係する地の法」

・ 被害者保護の観点から、曖昧な概念「市場地」を具体化し、(生産業者寄りの「生産物供給地」ではなく)生産物引渡地とした。

● 生産物の引渡しを受けた者以外の者
(いわゆる「バイスタンダー」に通則法18条の適用はあるか?)

その多様性(同居の家族・偶然隣にいた人等)に照らし、通則法18条が一律に適用されることはないと解されている。

【小出・一問一答 107頁参照】

律子

本件を通則法17条本文にあてはめると。

αはQにより製造された物であるため、「生産物(生産され又は加工された物をいう。以下この条において同じ。)」に該当します。

また、αは、突然動作を停止し、「本体内部から白煙が上がって…破裂した」とのことですから、「瑕疵」も認められます。

さらに、「本件事故によって周囲に飛散したαの破片の一部は、Bの右目の付近に当たり、Bは、この負傷により右目の視力を失った。」とのことですから、本件事故は、「引渡しがされたものの瑕疵により…生命、身体又は財産を侵害する不法行為」にあたりえます。

しかし、Bは、αの引渡を受けた者ではなく、Aと「観光客で混み合う道」で偶然すれ違った「バイスタンダー」に過ぎないことから、通則法18条(本文)の適用は受けません(そもそも「他人」ではない、と言えましょうか。)。

ワヴィニー

通則法18条(本文)ついては以上です。次に通則法17条の話になるのですが。
その前に、1点、下記補足を。(本問の具体的な処理とは関係しないのですが)通則法18条ただし書きについてです。

民訴法3条の3第8号かっこ書き(前述)・通則法17条ただし書き(後述)との混同を避け、むしろこの機会にそれらとの相互関係について理解を深めることが望ましいように思われますので。

具体的には、「通常予見することのできない」(民訴法3条の3第8号かっこ書き・通則法17条ただし書き・同18条ただし書き)か否かについては、いずれも(個別的・具体的な事案における主体の観点からではなく)客観的観点から決せられると解されているという点を理解しておきましょう。

(生産物責任の特例)
第十八条 前条の規定にかかわらず、生産物(生産され又は加工された物をいう。以下この条において同じ。)で引渡しがされたものの瑕疵により他人の生命、身体又は財産を侵害する不法行為によって生ずる生産業者(生産物を業として生産し、加工し、輸入し、輸出し、流通させ、又は販売した者をいう。以下この条において同じ。)又は生産物にその生産業者と認めることができる表示をした者(以下この条において「生産業者等」と総称する。)に対する債権の成立及び効力は、被害者が生産物の引渡しを受けた地の法による。ただし、その地における生産物の引渡しが通常予見することのできないものであったときは、生産業者等の主たる事業所の所在地の法(生産業者等が事業所を有しない場合にあっては、その常居所地法)による。

● 趣旨
(「生産業者等の主たる事業所の所在地の法」(「常居所地法」)(通則法18条ただし書)による趣旨)

・ 「生産業者との被害者との間の利益の衡平を図」る。

・ 「加害行為地確定という困難な問題を避け, 準拠法を一義的・明確に画定するため」
  ( 参照:「 加害行為が行われた地」(通則法17条ただし書) )

【小出・一問一答 104頁・105頁参照】

● 「通常予見することのできない」

客観的な規範の問題として, 生産業者等および生産物の性質, その流通の態様, 市場の状況等に照らして」判断される。

【小出・一問一答 108頁参照】

ウ.不法行為(一般)

法の適用に関する通則法

(不法行為)
第十七条 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。
(略)同条ただし書き(後述)

● 趣旨
(通則法17条本文が、「不法行為によって生ずる債権の成立及び効力」につき、「 加害行為の結果が発生した地」(「結果発生地」) の「法」 を準拠法とする趣旨)

被害者保護を重視する点等にある。

【小出・一問一答 99頁参照】

● 単位法律関係

「不法行為によって生ずる債権の成立及び効力」
不法行為の成立要件・効果、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効、過失相殺の可否等

● 連結点

「加害行為の結果が発生した地」

ワヴィニー

まず念のためですが。

通則法17条では、例えば、「不法行為」・「加害行為の結果が…発生した」・「結果の発生が通常予見することのできないもの」等、先ほど見た国際裁判管轄に関する条文(民訴法3条の3第8号)と同一又は類似の文言も使われています。

しかし、通則法は(17条以外も)、基本的には準拠法選択のためのルールです。
訴訟の場面においては、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる場合に、通則法に基づき準拠法を選択する、という関係性については再確認を。

さて、本件において、BがR社に対し、「製造物責任法第3条に基づき、本件事故によって被った損害の賠償を求める」ことは、不法行為の要件・効果に関する問題ですので、「不法行為によって生ずる債権の成立及び効力」と性質決定されます。

通則法17条本文によれば、Bが右目を負傷した日本(京都)が「 加害行為の結果が発生した地」(結果発生地)に該当し、日本「法」が適用されそうですね。

しかし、通則法17条にはただし書があります。

(不法行為)
第十七条 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただしその地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。

● 趣旨
(通則法17条ただし書が、 「その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったとき 」には、「 加害行為が行われた地 」(「加害行為地」) の「法」 を準拠法とする趣旨)

準拠法に関する加害者の予見可能性への配慮にある。

【小出・一問一答 99頁参照】

● 「予見」の対象
法の場所的適用範囲を画する(狭義の)国際私法の問題として、不法行為の結果発生自体(内容・規模等)ではなく、結果発生場所(どこで結果が発生するのか)である。

● 「予見」可能性の基準
「通常」とあることから、 加害者自身ではなく、加害者と同様の状況に置かれた一般人を基準とする。

ワヴィニー

基本的には、先に民訴法3条の8第3項かっこ書きについて見たのと同様の認定をすれば足りるでしょう。

律子

そうだとすると、予見可能性はあったと認められます。

従って、通則法17条ただし書きの適用はありません。

ワヴィニー

さて、念のため、「明らかにより密接な関係がある地」(通則法20条)がないかについては、毎回チェックしないといけません。

エ.明らかにより密接な関係がある地がある場合(例外)

(明らかにより密接な関係がある地がある場合の例外)
第二十条 前三条の規定にかかわらず、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、不法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと当事者間の契約に基づく義務に違反して不法行為が行われたことその他の事情に照らして明らかに前三条の規定により適用すべき法の属する地よりも密接な関係がある他の地があるときは、当該他の地の法による

● 趣旨
(「前三条の規定にかかわらず」)

・ 準拠法の明確性・安定性よりも、柔軟に具体的妥当性を確保するために優先して適用される例外条項。

● 趣旨
(「不法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと」)

「その常居所地は当事者双方の社会生活の基礎であって当事者に密接に関係する地であることから, その地の法を適用することが適切な場合が多いと考えられ」ること。

【小出・一問一答 116頁参照】

● 趣旨
(「当事者間の契約に基づく義務に違反して不法行為が行われたこと」)

「契約準拠法と不法行為の準拠法との矛盾・抵触を回避するために,…適切な場合も多いと考えられ」ること

【小出・一問一答 116頁】

律子

本件においては、Bの素性について「東京からの観光客」との事情しか判っておらず、R社と「法を同じくする地」たる乙国に「常居所」を有していたとの認定はできません(なお、R社については、「常居所」は存在しませんが、それに相当する「主たる事業所の所在地」(通則法18条・19条等参照)は、勿論乙国にあると認められます。)。

また、Q・Bが関係を有することとなったのは本件事故を通じてであり、「当事者間の契約」もありません。

さらに、「その他の事情」も不見当です。

通則法20条は適用されないことになります。

オ.結論

ワヴィニー

結論は?

律子

BのQに対する損害賠償請求について、日本法によって判断されるべきです(通則法17条本文)。

ワヴィニー

本件訴えにおいては、そもそも日本法(製造物責任法を含む。)が準拠法となるのですから、「製造物責任法第3条」に基づく訴えに対し被告Qが争うことなく日本法の適用を前提に弁論を行う等により、(外国法から日本法へ)当事者による準拠法の変更(通則法21条)があった、等と論じてはならないでしょう。

なお、これは聞き流してもらって結構ですが。

【補足】
前述の通り、Q社は、その拠点・財産・営業活動の全てが乙国内のみにとどまります。国際的に活動する法人ではないことから、敢えて日本法である製造物責任法第3条を準拠法とすることに合意する理由はない、という見方は、少なくとも実務的には正しくなく。仮に通則法により乙国法が準拠法となり、乙国法よりも日本の製造物責任法第3条の内容が自社に有利(メーカー側の責任が軽い等)であれば、Q社が日本法を準拠法とする合意をする可能性は十分あります。

ただ、その場合、なぜ敢えてBが日本法に基づく本件訴えを提起したのか、が問題となりますが…。準拠法合意がなく、また(典型的には本人訴訟の場合)乙国法等にも詳しくないので、そうするしかなかった。或いは、Bから「Q社には本件事故の予見可能性(通則法17条ただし書き)がなかったのだ。だから、乙国法が適用されるのだ。」等と主張すると、本案に影響しかねない(例えば、少なくともベクトルとしては、開発危険の抗弁等が認められ易い方向となりかねない)と考えた。本来的には当該予見可能性は「場所」についての予見可能性であるにも関わらず。ということかも知れません。

なお、我々は「暗闇への跳躍」をすることから、勿論現時点では見えてはいないのですが。「日本を含む数か国で本件事故と同様の破裂事故が発生している」ことから、現時点(設問1)において考えても、本件事故は設計・製造に基づくものであり、製品個体・使用上の不備等の問題ではないと合理的に考えられます。よって、Q社からの過失相殺等の主張は認められ難いように思われますね。

なお(×2)、これ以上ここでは立ち入りませんが、日本の製造物責任法についてバイスタンダーも(生命、身体、又は財産を侵害された)「他人」(同法3条)に含めるとの解釈を採用する場合、そのことを通則法17条・18条との関係でどのように理解すれば良いのか、自分なりに考えておきましょう。
(なお(×3)、その際、(実質法上)製造物責任は基本的には無過失責任である、ということについても、思考を巡らせてみても良いかも知れません。)

2.設問2

〔設問2〕
 本件事故を含む一連のαの破裂事故の原因がβにある可能性が高いと考えたQ社は、R社に調査を求めたところ、βの特定の製造ロットの製造過程において、膨張・破裂の原因となる微小な金属異物が混入していたことが判明した。そこで、Q社は、損害賠償金の支払やαの回収費用の支出により生じた多額の損失について、R社に対し、応分の負担を求めたが、Q社とR社との間で、負担割合をめぐる交渉は決裂した。
 Q社とR社との間の取引は、R社がQ社に対して毎年一定数量のβを供給する旨の契約(以下「本件契約」という。)に基づくものであった。本件契約は、2018年1月、それぞれの本社スタッフによる交渉の結果として締結されたものであり、本件契約には、「この契約は、日本法により解釈され規律される。」との条項があった。
 Q社は、R社に対し、本件契約上の債務の不履行に基づき、損害の賠償を求める訴えを東京地方裁判所に提起した。このQ社の請求について、裁判所は、「国際物品売買契約に関する国際連合条約」(以下「ウィーン売買条約」という。)を適用して判断する内容の本案判決を言い渡したが、乙国はウィーン売買条約の締約国ではなかった。
 上記判決において、裁判所が、Q社の請求についてウィーン売買条約を適用して判断したのはなぜか。理由を説明しなさい。

(1)ウィーン売買条約

【国際物品売買契約に関する国際連合条約】

第一部 適用範囲及び総則

第一章 適用範囲

第一条 
(1) この条約は、営業所が異なる国に所在する当事者間の物品売買契約について、次のいずれかの場合に適用する。
 (a) これらの国がいずれも締約国である場合
 (b) 国際私法の準則によれば締約国の法の適用が導かれる場合
(2) 当事者の営業所が異なる国に所在するという事実は、その事実が、契約から認められない場合又は契約の締結時以前における当事者間のあらゆる取引関係から若しくは契約の締結時以前に当事者によって明らかにされた情報から認められない場合には、考慮しない。
(3) 当事者の国籍及び当事者又は契約の民事的又は商事的な性質は、この条約の適用を決定するに当たって考慮しない。

第二条【適用除外】
この条約は、次の売買については、適用しない。
(a) 個人用、家族用又は家庭用に購入された物品の売買。ただし、売主が契約の締結時以前に当該物品がそのような使用のために購入されたことを知らず、かつ、知っているべきでもなかった場合は、この限りでない。
(b) 競り売買
(c) 強制執行その他法令に基づく売買
(d) 有価証券、商業証券又は通貨の売買
(e) 船、船舶、エアクッション船又は航空機の売買
(f) 電気の売買

第三条
(1) 物品を製造し、又は生産して供給する契約は、売買とする。ただし、物品を注文した当事者がそのような製造又は生産に必要な材料の実質的な部分を供給することを引き受ける場合は、この限りでない。
(2) この条約は、物品を供給する当事者の義務の主要な部分が労働その他の役務の提供から成る契約については、適用しない。

第六条
当事者は、この条約の適用を排除することができるものとし、第十二条の規定に従うことを条件として、この条約のいかなる規定も、その適用を制限し、又はその効力を変更することができる

ワヴィニー

条文操作の問題ですね。
(なお、第6条で引用されている「第十二条」については、現時点では無視しておいて結構です。)

ウィーン売買条約は、国際物品売買契約についての予測可能性・法的安定性等を確保するため制定されました(いわゆる万民法型統一私法)。

主には第1条・第3条が問題となりますが、間に挟まっている第2条、それから一応第6条も挙げておきました。

まず、第6条については?

律子

第6条については、Q社・R社共に、そこでいう「適用を制限」した事情は見当たらないことから、以下ウィーン売買条約を適用して検討する、という話ですね。

ワヴィニー

では、第3条は?

律子

「Q社とR社との間の取引は、R社がQ社に対して毎年一定数量のβを供給する旨の契約(以下「本件契約」という。)に基づくもの」なので、本件契約は、「売買」(ウィーン売買条約3条(1)項本文)に該当する(なお、同項ただし書に該当する事情もない。)。

ワヴィニー

そこで、第1条柱書を見ると?

律子

Q社の営業所は日本にあり、R社の営業所は乙国にあるので…

本件契約は、「営業所が異なる国に所在する当事者間の物品売買契約」(ウィーン売買条約1条(1)項柱書)に該当する。

ワヴィニー

そこで、第1条(1)項各号を見ると?

律子

まず、少なくとも乙国は、ウィーン売買条約の加盟国ではないことから、本件は「(a) これらの国がいずれも締約国である場合」には該当しない。

ワヴィニー

しかし?

律子

本件契約においては、「この契約は、日本法により解釈され規律される。」との条項があり、当該条項は法廷地たる日本の「国際私法」(に含まれる法律の一つ)である通則法7条に基づく当事者による法選択として有効であることから、本件契約には日本法が適用される。

そして、日本は、ウィーン売買条約の加盟国である。

よって、本件は「(b) 国際私法の準則によれば締約国の法の適用が導かれる場合」に該当する。

(2)結論

ワヴィニー

結論は?

律子

前述の通りですので、割愛させていただきます。

ワヴィニー

さて、最後に、「暗闇への跳躍」のみする我々の関心事ではないですが。実務的観点から、実質法上の、或いは事実関係上の問題について、1点だけ「余事記載」しておきましょう。

この時点(設問2)では、Q社の調査依頼に応じ、(Q社の内部調査の段階(設問1)を超えて)R社自身による独自の調査がされ、かつその結果もR社に責任が生じ得る不利益な結果が出たのですね。自己に不利益な事実を認める調査結果であり、本件事故を含む一連の事故の原因自体については、相当に信頼ができますね。

ただ、それはそれとして、①「損害賠償金の支払」、或いは②「αの回収費用」については、「負担割合をめぐる交渉は決裂」することはままあるでしょう。
このような事故が発生した場合、Q社としては、①早々に被害者と和解し、それ自体は必ずしも妥当ではない額の損害賠償金を支払ってしまうこと、或いは②原因特定前であっても、問題のあるロットのβを含むαに限らず、α一般を広くリコールすることがある意味合理的ですが。
それに対し、R社としては、①②共、そこまでする必要はなかった(例えば、①被害者側にも過失があった、或いは②高温多湿ではない国での販売分についてはリコール不要だった)、等と主張することはあるでしょうから。
(勿論、通常の、或いは行き届いた英文契約書においては、そのあたりの対応・責任分担についても、明確かつ具体的な条項が規定されるものではあるのですが。)

律子

国際取引法については、「実務の経験があったから良かった(イメージが持ち易かった。)。」となることはありえるのかも知れませんね。

ワヴィニー

ただ、「実務の経験がなかったから助からなかった。」ということはないですよ。

予備試験において、また司法試験においても、実務の経験が「必要」なはずがありません。

出題の趣旨

 本問は、生産物の瑕疵により生じた渉外的な不法行為の事例を素材として、国際裁判管轄、準拠法及び国際物品売買契約に関する国際連合条約(以下「ウィーン売買条約」という。)の適用に関する基本的理解を問うものである。
 設問1の小問1は、生産物の瑕疵により発生した事故(以下「本件事故」という。)にたまたま巻き込まれて傷害を負ったBによる、生産物の製造業者であるQ社に対する訴えについて、日本の裁判所の国際裁判管轄権の有無を問うものである。特に民事訴訟法第3条の3第8号について論ずることが求められている。同号の「不法行為があった地」の解釈を明らかにして本件に適用し、さらに、同号括弧書における予見可能性の対象についての理解を示した上で予見可能性の有無を検討しなければならない。同号の規定に基づき日本の裁判所が国際裁判管轄権を有することとなるときは、民事訴訟法第3条の9についても検討することが必要である。
 設問1の小問2は、上記のBによる損害賠償請求の準拠法を問うものである。本件事故は生産物の瑕疵により発生したものであるが、Bは生産物の引渡しを受けておらず、事故にたまたま巻き込まれたいわゆるバイスタンダーであるため、法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)第18条の規定によるべきか、あるいは同法第17条の規定によるべきかをまず検討しなければならない。通則法第18条の趣旨及び文言から、本問のような場合には同法第18条によるべきではなく、同法第17条により準拠法を決定すべきであるとの立場によるとすれば、同条本文の「加害行為の結果が発生した地」を明らかにし、更に同条ただし書の予見可能性の有無を検討しなければならない。最後に通則法第20条も検討した上で、いずれの国の法が準拠法となるかについて結論を示さなければならない。
 設問2は、R社が製造した部品をQ社に供給する契約(以下「本件契約」という。)に関して、Q社がR社に対して、本件契約上の債務の不履行に基づく損害の賠償を求める訴えを日本の裁判所に提起したところ、裁判所がウィーン売買条約を適用して判断した理由の説明を求めることで、同条約の適用範囲についての理解を問うものである。ウィーン売買条約第1条を検討し、本件契約が同条第1項の「営業所が異なる国に所在する当事者間の物品売買契約」に該当することを指摘した上で、同項a号には当たらないが、通則法第7条により日本法が準拠法となるため同条約第1条第1項b号に当たり、また、当事者が同条約の適用を排除していないことを指摘することで、裁判所が同条約を適用した理由について説明することが求められている。

【出典:法務省ウェブサイト (https://www.moj.go.jp/content/001411617.pdf)】

律子

冒頭に(設問1・2双方に係る説明として)「不法行為の事例」とあるが。

設問2は、(不法行為自体ではなく)「契約」・「債務不履行」の事例だ。

なお、設問1の小問2の「Q」は「Q社」だろう。取るに足らない点だが。
きっと(Cut!?)。

答案例

「1.書式無用、2.改行不要」
(Freedrink Marl fun Wavigny)

それから

Aちゃん、これ見て。

何これ。

筒を回すと色んな模様が見えて、楽しい。

「万華鏡」って、言うんだよ。
回せば回す程、様々な模様が見えるんだ。

あの日に買ったんだ。

…そうだったんだ。

あの日…、懐かしいね…

丙国で生まれ育って、東京の大学(工学部)に留学していた僕が、たまたま東京から京都に旅行に行っていたあの日。

全くの先入観で、君を(単身乙国へ旅行したという理由だけで)「男性」、(「東京からの観光客」に過ぎない)僕を「日本人」だという「偏見」で問題検討した受験生(必ずしも「高慢」とは限らない)が比較的多かったあの夏…

丁国大学(京都校)人間科学部に通っていた君を、自習室として使うためだけに「京都の観光地区に近接する大学の図書館に向かって歩いていた」だけの君を、旧帝国大学(とかの)「法学部生」or「法科大学院生」だと根拠なきイメージを持った受験生が多かったあの夏…

あれから丁度1年後だったわね。戊国のS社が、たっぷりと培養することに成功した「TAPRI細胞」を利用した「網膜再生医療」を開発したのは。

そして、それから1年後だったね。B君が翻ってR社を訴え、勝訴することにより、当該医療の治験を受けるため戊国に渡航する費用を賄うことに成功したのは。βが「日本法人R社東京工場製」だったこともあり、不法行為地の裁判管轄(国際&国内)が認められてラッキーだったね。

それはさておき、あれがなければ、僕たちは出会っていなかった…

そして、僕が、君に対し、”Stand by me, please.”とプロポーザルすることもなかった…

あの時、もし私たちが既に親子になっていたら、バイスタンダーという烙印を押されなくて済んだかもしれない、という人はいるかも知れない…

それにしても、男女っぽい二人が、「プロポーズ」っぽい話をしていることから、「婚姻」という「自然」な読み方をし(「プロポーザル」は言い間違いだろうとお目こぼしいただいた上で)、「養子縁組」とは法性決定しない「常識」的な方が多いことに一安心してる、この冬…(か夏か、春秋(戦国時代)か)

そう言えば、君のご両親(現在も親子関係は存続中。「普通」の話。)に会ったのは、あの件から3年後だったね。

そう、今ではスッカリ仲良くなることができて。

今日のランチも楽しみだわ。

だね。そろそろ行こう。

おしゃべりしているとポートアイランドでの待ち合わせにおくれちゃう。今日も暑いから日傘が要るよ。

…そう言えば、昨日、電話で君の(もう一人の)お父さんと待ち合わせ時間の相談をした時に言っていたよ。

「今年の夏も猛暑だな…。そう言えば、あの子が大学生の時、甲国から帰国後に京都のアパートに戻る前、一時使っていた手持ち式小型扇風機があったな。あの子に内緒でサウナに入りながら毎日使っていたんだが…。非常に快適だった。後で押入れを探してみよう。」って。

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