【予備試験】国際関係法(私法系)令和4年
目次
問題
[国際関係法(私法系)]
甲国籍のA女は、1987年に甲国P州で生まれ、その後も2009年まで同州にのみ居住していた。Aの親族は、現在まで同州に居住している。甲国籍のB男は、1987年に甲国Q州で生まれ、その後も2011年まで同州にのみ居住していた。Bの親族は、現在まで同州に居住している。A及びBは、2009年に甲国Q州において、いずれも22歳で婚姻して、Aは同州に転居した。婚姻から約1年後の2010年に同州において、AB間に子C(甲国籍)が生まれた。Cの出生から更に1年間、A、B及びCは同州に居住していた。Bは2009年に同州の大学の日本語学科を卒業後、同州内の地元企業に就職したが、2011年に日本企業に転職し、就業場所が東京となったことから、A、B及びCは同年に来日し、現在まで日本で生活を営んでいる。Aは、日本の大学に甲国語の語学教師として常勤しており、Cは、日本の公立学校に通学している。Cが6歳になる2016年頃から、Bは、A及びCに対して日常的に暴力を振るうようになり、これによりAB間の婚姻関係は実質的に破綻し、AとBは翌2017年から別居して、それ以降はAがCを監護している。A及びBは、それぞれ今後も日本での生活を継続する予定であり、甲国に帰国する意思はない。
別居から約5年後の2022年に、Aは、Bとの離婚等を求めて、日本の家庭裁判所に調停を申し立てた。その後、調停は不成立となり、Aは、Bの暴行等により婚姻関係が破綻したと主張して、Bを被告として、離婚及びCの親権者をAと定めること、並びに離婚せざるを得なくなったことについての精神的苦痛に対する慰謝料200万円及びBの暴行についての精神的苦痛に対する慰謝料100万円の合計300万円の支払を求める訴えを提起した。
なお、甲国は、P州、Q州を含む複数の州から成る地域的不統一法国であり、州ごとに民法の内容が異なる。甲国P州民法は、①年齢18歳をもって成年とすること、②離婚をするときは、未成年の子の親権は父母が共同して行う旨の規定を有している。甲国Q州民法は、①年齢20歳をもって成年とすること、②離婚をするときは、未成年の子の親権は父のみが行う旨の規定を有している。また、甲国には、甲国人が甲国内のいずれの州に属するかを示すような属人法の決定基準として用いられる統一的な準国際私法の規則は存在しない。
以上の事実に加え、本件において日本の裁判所に国際裁判管轄権が認められること及び日本の国際私法の観点からみてAB間の婚姻が有効に成立していることを前提として、以下の設問に答えなさい。
〔設問1)
本件においてAB間の離婚が認められるか否かについて、日本の裁判所は、いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。
〔設問2〕
本件においてAB間の離婚が認められるものとする。その場合において、以下の小問に答えなさい。
〔小問1〕
日本の裁判所は、Cの親権者をAと定めることができるか。準拠法の決定過程を示しつつ、論じなさい。
〔小問2〕
Aの慰謝料請求について、日本の裁判所は、いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。
【出典:法務省ウェブサイト (https://www.moj.go.jp/content/001376763.pdf)】
一つ(Whereas!?)。「本件において日本の裁判所に国際裁判管轄権が認められる」ことから、国際裁判管轄については論じる必要なし。
一つ(Whereas!?)。「日本の国際私法の観点からみてAB間の婚姻が有効に成立している」ことから、婚姻について、先決問題として論じる必要なし。
一つ(Whereas!?)。「Aは、Bとの離婚等を求めて、日本の家庭裁判所に調停を申し立てた。その後、調停は不成立となり」という点については、調停前置主義に目配せしたものに過ぎず。
1.設問1
〔設問1)
本件においてAB間の離婚が認められるか否かについて、日本の裁判所は、いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。
(1)離婚
「AB間の離婚が認められるか否か」については、離婚の可否の問題として、「離婚」(通則法27条)と性質決定され、同条本文により準用される通則法25条が適用されますね。
(離婚)
第二十七条 第二十五条の規定は、離婚について準用する。ただし、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。
(婚姻の効力)
第二十五条 婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。
● 趣旨
段階的連結を採用した趣旨:「抵触法規の分野で夫と妻を対等に扱うためには、両者に共通な要素を順次捜し出すのが適当であると考えられたから」
1.「本国法」(第一段階)による趣旨:本国法主義(国民と国家(領土・施行法等)との密接関係性、及び基準としての明確性・固定性等を根拠とする。)
2.「常居所地法」(第二段階)による趣旨:「共通の本国法がないときは、夫婦が同じ国に居住していればその法律によらしめるのが適当であるので」
3.「最も密接な関係がある地の法」(第三段階)による趣旨:最終的な補充
【南・解説 49・65頁参照】
それでは、まず、ABの「本国法が同一」か否かから、検討するわ。
…って、二人とも甲国人なんやから、同一に決まっています!
「甲国は、P州、Q州を含む複数の州から成る地域的不統一法国であり、州ごとに民法の内容が異なる。」とのことです。
(2)地域的不統一法国
ということは、「夫婦の本国法が同一であるとき」(25条)の「同一」か否かを判断する前提として、通則法38条3項により、まずA・Bそれぞれの「本国法」を特定する必要があります。
なお、「甲国には、甲国人が甲国内のいずれの州に属するかを示すような属人法の決定基準として用いられる統一的な準国際私法の規則は存在しない。」とのことです。
(本国法)
第三十八条 (略)
2 (略)
3 当事者が地域により法を異にする国の国籍を有する場合には、その国の規則に従い指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある地域の法)を当事者の本国法とする。
● 趣旨
1.「その国の規則に従い指定される法」による趣旨
・「ヘーグ国際私法会議の作成した各種の条約がいずれも間接指定方式によっていること」
・「間接指定方式によれば、当該当事者がその本国で裁判がされる場合と同じ法律によることができ、指定方式としては、この方が優れている」
2.「当事者に最も密接な関係がある地域の法」による趣旨:「そのような規則がない場合」の補充
【南・解説 183頁参照】
「(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある地域の法)」を当事者の本国法とする。ということなので、当事者A・Bに「最も密接な関係がある地域の法」を探求する必要があるのだけれど…。具体的には、どうやって探求したら良いのでしょう?
明確な基準はありません。諸般の事情を考慮して、ということで良いでしょう。
【Bの本国法は?】
そういうことなら、B男は、生来、約24年間(1987年~2011年)の長きに渡り、Q州にのみ居住し、また(例えば、将来、相続等で具体的関係を持つこととなりうる)その親族は、その全てが現在まで同州に居住している。
2009年には同州の大学を卒業し、地元企業に就職したとのこともあるし。
Aとの結婚、子Cの出生も同州で、ということなので。
結論としては、Bについては、Q州が最も密接な関係を有する地域であり、Q州法が本国法であることは明白です。
「親族」とありますが、勿論「A・Cを除く」ということでしょうね。
些細な点ですが、甲国は、「P州、Q州を含む複数の州から成る」地域的不統一法国とのこと。よって、例えば、R州が存在する場合、(本件事実を見る限り、その可能性はまずないとは思われるものの)少なくとも論理的には、Bが(Q州よりも)R州とより密接な関係を有する可能性も否定はできません(※)。
(※)例えば、Bの居住地がQ州とR州との州境付近(Q州側)であり、通学・通勤していた小・中・高・大・就業場所(地元企業の支店等)の全てがR州に所在していたことから、クラブ活動・アルバイト・残業等により、自宅にはほぼ「寝に帰るだけの日々」であった場合等が想定される。
よって、最密接関係性については、今述べられた通り、Q州について具体的に認定をすべきでしょう。
(例えば、「P州とBとは、Aを通じた間接的関係しかないので」(Q州が最密接関係地法)等とする消去法的な論理・認定は避けた方がベターです。)
【Aの本国法は?】
うむ。
それはさておき、次に、Aは、生来、約22年間(1987年~2009年)の長きに渡り、P州にのみ居住し、また(例えば、将来、相続等で具体的関係を持つこととなりうる)その親族(勿論B・C以外)は、その全てが現在まで同州に居住している。Aの本国法は、基本的にP州だと考えられます。
他方、AはQ州とも関係はあり、同州において、①2009年、Bと婚姻し転居したこと、②2010年、子Cを産んだこと、及び③2011年まで、居住していたこと、は認められますが。しかし、AがQ州と関係した年数等を考慮すれば、それらの事情は、前述したP州法の本国法該当性を覆すほどの事情とは考えられません。
よって、結論としては、Aの本国法はP州法です。
ということは、Aの本国法はP州法、前述の通りBの本国法はQ州法なので、「同一であるとき」(通則法27条、25条)には該当しませんね。
なお、日本の国際私法の話ですので、これ以上は立ち入りませんが。
離婚・婚姻の問題に関連して夫婦の一方の本国法を探求するに際しては、(他の親族うんぬんではなく)夫婦関係に関連して最も密接な関係を有する地域を探求すれば足り、そうであればAの本国法もQ州法であり、Q州法こそが同一本国法である、とも思われる。という人がいるかも知れませんね。
しかし、本国法は属人法ですので、「当事者に最も密接な関係がある地域」を認定するに際して考慮される「諸般の事情」は、検討対象となる人についての一般的な事情です。事案に即した個別的・具体的な問題(例:婚姻・離婚)との関連での「諸般の事情」に絞った検討は、少なくとも一般的な方法ではないはずです。
(3)常居所地法
(婚姻の効力)
第二十五条 婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。
それはさておき、同一本国法は存在しないことから、次に、「夫婦の常居所地法が同一であるとき」か否かを検討する必要がありますね。
これまた明確な基準はありませんが、常居所について、これぐらいは知っておきましょう。
● 常居所
・定義:「人が相当長期間にわたって居住する場所」
・考慮要素:①客観面:居住期間等、②主観面:居住意思等、諸般の事情を総合考慮
・具体例:外国人(観光目的)については、日本に常居所は認められず。その他の外国人については、通常は5年(永住目的があれば1年)の居住期間等が一つの目安。日本人については住民票があれば認められる。等
【南・解説 195~197頁参照】
【Bの常居所は?】
Bは、来日後、(現在もそうかも知れないが)少なくとも当初は日本企業(東京)で働き、現在まで約11年間(2011年~2022年)の長きに渡り日本で生活しています。
今後も日本で生活を継続する予定であり、甲国に帰国する意思はないらしく。
(なお、1987年生まれなので、2022年現在約35歳。甲国人(男性)の平均寿命等は知らないが、仮に70歳としても日本での生活は今後も35年もの長きに渡ることとなり、過去の11年を大きく超えることになりそうです。)。
子Cは、日本の公立学校に通学していることも事情の一つとしては考慮して。
結論としては、Bが相当長期間にわたって居住する場所として、Bの常居所地は日本です。
Aについては?
【Aの常居所は?】
Aも、来日後、現在まで約11年間(2011年~2022年)の長きに渡り日本で生活しています。日本の大学に甲国語の語学教師として常勤していますし。
今後も日本で生活を継続する予定であり、甲国に帰国する意思はないとのこと(日本での生活が将来長きに渡りうる点についても、Bと同様。)。
子Cは、日本の公立学校に通学していることも事情の一つとしては考慮して。
結論としては、Aが相当長期間にわたって居住する場所として、Aの常居所も日本です。
なお、Cの存在については、同居しているAについては事情の一つとして考慮し、別居しているBについては考慮しない(少なくとも重きを置かない)、ということもありえましょうか。ただ、Bが暴力の存在を争い、自己の親権等を主張している可能性もありえますから、ここではA・Bにつき同等に考慮しておけば足りるでしょう。
(4)結論
結論は?
「夫婦の常居所地法が同一であるとき」(通則法27条、25条)」にあたることから、本件においてAB間の離婚が認められるか否かについて、日本の裁判所は、常居所地法である日本法を適用して判断すべきです。
2.設問2
(1)小問1
〔設問2〕
本件においてAB間の離婚が認められるものとする。その場合において、以下の小問に答えなさい。
〔小問1〕
日本の裁判所は、Cの親権者をAと定めることができるか。準拠法の決定過程を示しつつ、論じなさい。
「離婚」に際しての親権者指定の問題なので、離婚に性質決定されると。そこで、先ほど確認した離婚の準拠法を見ると…
離婚に際しての「親権者を…定める」という問題ですから、親子間の法律問題、という側面がありますね。
ア.離婚に際しての親権者指定
(親子間の法律関係)
第三十二条 親子間の法律関係は、子の本国法が父又は母の本国法(父母の一方が死亡し、又は知れない場合にあっては、他の一方の本国法)と同一である場合には子の本国法により、その他の場合には子の常居所地法による。
● 趣旨
・「子」の本国法・常居所法による趣旨:子の福祉
・「父又は母」とする趣旨:両性平等
【南・解説 156・157頁参照】
● 離婚に伴う親権者指定
(離婚の問題?or親子間の法律関係の問題?)
【結論】
・「親子間の法律関係」(通則法32条)と性質決定
【理由】
・親権者の指定は、離婚の場面に限らず問題となるため、離婚と性質決定する必然性はない。
・通則法32条が子の本国法・常居所地法による趣旨は、子の福祉にあり、子の福祉に重大な影響を有する親権者の指定についても当該趣旨が妥当する。
では、「Cの親権者をAと定めることができるか」については、親権者指定の問題として、子の福祉を重視し、「親子間の法律関係」(通則法32条)と性質決定されると考えておきます。
32条は、「子の本国法が父又は母の本国法〔中略〕)と同一である場合」と「その他の場合」とを分けています
そこで、まず、子Cの本国法が父B又は母Aの本国法と「同一」か否か、を確認する必要がありますが。
その前提として、ここでもCの「本国法」を特定する必要があります。
先ほど27条・25条におけるABの同一本国法の検討において見たのと同様ですね。
もっとも、「子C(甲国籍)」とはあるもの、他に見るべき事情は認められません。
通則法38条3項の「当事者に最も密接な関係がある地域」を探求することになります。
(本国法)
第三十八条 (略)
2 (略)
3 当事者が地域により法を異にする国の国籍を有する場合には、その国の規則に従い指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある地域の法)を当事者の本国法とする。
【Cの本国法は?】
Cについて、甲国との関係性は…
「婚姻から約1年後の2010年に同州において、AB間に子C(甲国籍)が生まれた。Cの出生から更に1年間、A、B及びCは同州に居住していた。」と。「同州」は、Q州のこと。
結論として、Cが最も密接な関係がある地域は、Q州しかありえないです。
ということは、Cの本国法は、(Aの本国法であるP州法ではなく)Bの本国法と同じQ州法なので、「子の本国法が父〔中略〕の本国法〔中略〕と同一である場合」に該当し、Cの親権者の指定はQ州法によることになる。
なお、日本の国際私法の話ですので、これ以上は立ち入りませんが。
未成年者・親権者指定の問題については、同居している親を通じて最も密接な関係を有する地域等を探求すれば良く、仮にそうだとすると本件でもP州法こそがCの本国法である(生まれてから1年しかいなかった(いたことも覚えていないであろう)Q州法よりも)、と思われる。という人がいるかも知れませんね。
しかし、本国法は属人法ですので、「当事者に最も密接な関係がある地域」を認定するに際して考慮される「諸般の事情」は、検討対象となる人についての一般的な事情です。事案に即した個別的・具体的な問題(例:未成年者・親権者指定)との関連での「諸般の事情」に絞った検討は、少なくとも一般的な方法ではないはずです。
それはさておき、Q州法を見てみると…、「甲国Q州民法は、…②離婚をするときは、未成年の子の親権は父のみが行う旨の規定を有している。」とのこと。
本件は、「離婚をするとき」に該当し、またCは「未成年」の「子」なので、Cの親権は父Bのみが行うことになりますね。
「離婚をするとき」・「子」については、仰る通りですが、なぜCが「未成年」だと判ったのですか?
イ.行為能力
???
Cは、2010年生まれなので、まだ12歳前後だから。18歳未満ですよ!
それは、いわゆる「日本法頭」(愛称:「ポンズ」, 「ポントウ」, or「ポンガシ(ラ)」)さん、ですね。まだまだ国際私法的思考方法に慣れていないように思われます。
成人年齢は各国で異なる以上、成年・未成年の別は、具体的な各国・地域法(準拠法)を適用した結果の話です。そのような具体的な各国・地域法(準拠法)を選択するのが国際私法です。
通則法4条を見てください。
第一節 人
(人の行為能力)
第四条 人の行為能力は、その本国法によって定める。
2 (略)
3 (略)
● 「人の行為能力」
【結論】
年齢に基づく財産的行為能力と解される。
【理由】
1.成年後見・補佐・補助に関しては、別途規定(通則法5条)が設けられている。
2.いわゆる身分的行為能力 (例:婚姻能力・認知能力・遺言能力等) 等については、個々の行為自体の準拠法(例えば、遺言能力につき、通則法37条1項に基づく準拠法)によると解される。
うっかりしていました。
ということで、改めて先ほど確認したCの本国法(Q州法)を見ると、「①年齢20歳をもって成年とする〔中略〕旨の規定を有している。」とのこと。
本件についてみると、Cは2010年生まれ・現在約12歳なんで、結論的には、Cは本国法たるQ州法上の「未成年」にあたり、その点は問題なし、と。
(「結局、日本法によっても、P州法によっても、Q州法によったのと同じ結論になるのだから検討不要ではないか。」とは言いません。国際私法では、「暗闇への跳躍」をしないといけないのですから。)
ということで、話を戻すと、Cの親権者は父であるBになるのですね。
「Cが6歳になる2016年頃から、Bは、A及びCに対して日常的に暴力を振るうようになり、これによりAB間の婚姻関係は実質的に破綻し、AとBは翌2017年から別居して、それ以降はAがCを監護している。」とのことです。
それ、アカンやつやん!
ウ.公序
(公序)
第四十二条
外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。
● 趣旨
(「適用しない」こととした趣旨)
日本国内における公序の維持
● 趣旨
(「その規定『の適用』が」と規定した趣旨)
外国法の規定自体(「その規定が」等)ではなく、事案における具体的適用結果(「適用」)に限り問題・検討対象とする趣旨。
公序については、諸説あるようですが、現時点では、下記程度の知識があれば必要十分でしょう。
(少なくとも予備試験対策としては、①下記を超える知識を持っている人と、そうではない人と、論述において差が付くような出題は想定し難いこと、及び②仮にそのような出題がされたとしても、他の論述ポイントもある(かつ他に9科目も存在する)ことから、少なくとも合否を左右する「差」が付きうる配点を「公序」にのみ振ることは想定し難いことから。です。)
● 「公の秩序又は善良の風俗に反するとき」(通則法42条)
【要件】
趣旨に照らし、①事案の内国関連性、②外国法適用結果の異常性を考慮しつつ、判断すれば足りる。
【効果】
公序違反の効果については、その要件吟味の段階で、論理的に日本法の適用を前提にした判断が行われていると考えられることから、日本法によれば足りる。
本件について見るに、①親であるA・Bについては、前述の通り、現在及び将来の常居所地は日本であると認められる。また、2017年以降はAがCを監護していることから、Cの常居所地も同様。よって、他に見るべき事情はなく、事案の内国関連性は認められる。
他方、②仮にQ州法を適用してBがCの親権者となるとすると、そのような結果は、即ち日常的に暴力を振るう父に子を委ねる結果となるので、外国法適用結果の異常性についても認められる。
よって、本件におけるCの親権者指定について、Q州法の適用は排除されることとなるわ。
Q州法の適用排除は、その論理的前提として日本法の適用の結果であると考えられることから、本件においては、日本法を適用することとなる。
エ.結論
結論は?
裁判所は、日本法(民法819条2項)により、父母の一方たる母AをCの親権者と定めることができる(通則法32条、42条)。
(2)小問2
〔小問2〕
Aの慰謝料請求について、日本の裁判所は、いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。
ア.慰謝料(離婚の点)
まず、「離婚せざるを得なくなったことについての精神的苦痛に対する慰謝料」については、離婚そのものから本質的に生じる問題として、「離婚」(27条)と性質決定されます。よって、Aの慰謝料請求については、先ほど確認した離婚の準拠法、即ち日本法によることとなります。
それに対し、「Bの暴行についての精神的苦痛に対する慰謝料」については、離婚しなくとも生じ得るという点において別問題であり、暴行は不法とされうることから、別途「不法行為」(通則法17条)と性質決定されます。
イ.慰謝料(暴行の点)
(不法行為)
第十七条 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。
● 趣旨
(通則法17条本文が、「不法行為によって生ずる債権の成立及び効力」につき、「 加害行為の結果が発生した地」(「結果発生地」) の「法」 を準拠法とする趣旨)
被害者保護を重視する点等
【小出・一問一答 99頁参照】
本件において、夫Bの暴行という「加害行為」によるAの精神的苦痛という「結果」は、日本で発生したことから、本件不法行為については日本法が適用されます(なお、通則法17条ただし書の適用について検討を要するような事情は不見当です。)。
ただ、本件におけるABは夫婦であり、特別な関係にありますから、通則法20条の適用の有無についても検討しておいた方が良いでしょう。
ウ.明らかにより密接な関係がある地があるとき
(明らかにより密接な関係がある地がある場合の例外)
第二十条 前三条の規定にかかわらず、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、不法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと、当事者間の契約に基づく義務に違反して不法行為が行われたことその他の事情に照らして、明らかに前三条の規定により適用すべき法の属する地よりも密接な関係がある他の地があるときは、当該他の地の法による。
● 趣旨
(「前三条の規定にかかわらず」とする趣旨)
・準拠法の明確性・安定性よりも、柔軟に具体的妥当性を確保するために、例外的に前三条に優先して適用する趣旨
● 趣旨
(不法行為の当時において「当事者が法を同じくする地に常居所を有していた」ことを例示する趣旨)
「その常居所地は当事者双方の社会生活の基礎であって当事者に密接に関係する地であることから, その地の法を適用することが適切な場合が多いと考えられ」ること。
【小出・一問一答 116頁】
● 趣旨
(「当事者間の契約に基づく義務に違反」して不法行為が行われたことを例示する趣旨)
「契約準拠法と不法行為の準拠法との矛盾・抵触を回避するために,…適切な場合も多いと考えられ」ること。
【小出・一問一答 116頁】
本件において、20条で例示されている2点のうち、①「常居所」については、A・B共に日本にあると認められます(前述)。
他方、②AB間の「契約」を認めるべき事情は、見当たりません。③「その他の事情」についても同様です。
よって、日本(17条により「適用すべき法」たる日本法の属する地)と比較して、「明らかに」「よりも密接な関係がある他の地」は存在しません。
本件に即して具体的に言えば、甲国(P州・Q州・その他の州)は、「他の地」(20条)には該当しません。
エ.消滅時効
なお、設問では、特に限定することなく、「Aの慰謝料請求について」広く問われていますね。
Aの訴え提起は、「別居から約5年後の2022年に」ということなので、おそらくBによる最後の暴行からは、約5年が経過しているのでしょう。慰謝料(離婚の点)については直近の問題ですが、慰謝料(暴行の点)については、不法行為に基づく債権が時効により消滅していないか、も一応問題となりえます。
債権の消滅時効については、取引債権と不法行為債権とで消滅時効期間を異ならしめる法制もあること等から、各債権の効力の問題と性質決定し、その発生原因の準拠法によれば良いでしょう。
本件の慰謝料請求権(暴行の件)の消滅時効も、その効力の問題と性質決定され、その発生原因たる「不法行為」の準拠法によることになりましょう。
もっとも、国際私法上の一般論としても、また本件においても、そもそも準拠法の適用結果までは問われていないこと等から、その点について取り立てて論じる必要まではないでしょう。本件において、準拠法は日本法となりそうですし、消滅時効に係る甲国法の内容等も明らかにされておらず。
なお、「暗闇への跳躍」をしたくないのが人情というもの。少しだけ明かりを灯しておくとすると、朧気ながら民法724条の2、或いは724条1号が(ついでに同159条も)見えますね。
オ.結論
まとめると。結論は?
まず、「離婚せざるを得なくなったことについての精神的苦痛に対する慰謝料」(200万円)については、日本の裁判所は、日本法を適用して判断すべきです(通則法27条、25条)。
また、「Bの暴行についての精神的苦痛に対する慰謝料」(100万円)についても、日本の裁判所は、日本法を適用して判断すべきです(通則法17条)。
出題の趣旨
本問は、渉外的な離婚とそれに伴う親権者の指定及び慰謝料請求の準拠法に関する基本的理解を問うものである。
設問1は、いずれも地域的不統一法国の国籍を有する者を当事者とする離婚について、その準拠法を問うものである。法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)第27条の離婚の問題と性質決定し、同条本文が準用する通則法第25条の規定の解釈・適用が問題となる。本問では、通則法第38条第3項かっこ書に従い、当事者それぞれの本国法を特定した後に、通則法第27条本文が準用する通則法第25条の規定の同一本国法が存在するかを判断し、存在しない場合には、同一常居所地法が存在するかを検討するというプロセスが論理的に示されなければならない。
設問2は、離婚に伴う子の親権者の指定につき、その準拠法の決定と適用を問うものである。通則法第32条の親子間の法律関係の問題と性質決定し、同条の規定によって指定される準拠法によることを示した上で、地域的不統一法国の国籍を有する者である子(と父又は母)の本国法を通則法第38条第3項かっこ書に従い特定し、通則法第32条の同一本国法を決定するというプロセスが論理的に示されなければならない。本問では、子と父の同一本国法である甲国Q州法を事案に適用した結果、父のみが親権者とされ、母が親権者となる余地がないことから、通則法第42条の公序則の発動の可否についても、本問の具体的な事案に即して、説得的に論述することが求められている。さらに、公序則の発動があった場合、誰を親権者として指定すべきかを、法的根拠を示して論じなければならない。
設問3は、離婚に伴う慰謝料請求の準拠法についての理解を問うものである。本問では、離婚せざるを得なくなったことについての精神的苦痛に対する慰謝料及び夫の暴行についての精神的苦痛に対する慰謝料が請求されている。それらの慰謝料について一括して法律関係の性質決定をするのか、それぞれに分けて性質決定をするのか、また、通則法第27条の離婚準拠法を適用するのか、通則法第17条以下の不法行為の準拠法を適用するのかが、論理的に示されなければならない。不法行為と性質決定する場合には、本問は夫婦という特別の関係にある者の間の不法行為であることから、通則法第20条の規定が適用されるかどうかについても検討すべきである。
【出典:法務省ウェブサイト (https://www.moj.go.jp/content/001386520.pdf)】
「設問2」は、「設問2小問1」のことやわ。
「設問3」は、「設問2小問2」のことやわ。
きっと(Cut?)。
答案例
「1.書式無用、2.改行不要」
(Freedrink Marl fun Wavigny)
それから
僕、あの時、「パパが、ママと僕に日常的に暴力を振るう」という話をしてしまったけど、大丈夫だった?
大丈夫よ。
それでも、僕は、パパが大好きだよ。
そうね。ママも同じよ。
あの時、高いところに座ったオジサンが、「痛かったでしょ?」って、言ってきたから、「うん」って、本当のことを言ってしまったけど、それも大丈夫だった?
大丈夫よ。
パパに会いたい…
パパは、Q州大学の日本語学科卒なので、日本語でも冗談が言えたし。
お風呂に入る時の「心配してください。脱いでますよ。」は全然面白くなかったけど(笑)。
あれこそ「暴力」よね(笑)。
ママも、日本の大学で教えているぐらいだから、日本語での冗談もかなり理解できるのよ。
ふ~ん。そうなんだ。
さぁ、そろそろ行くわよ。
おしゃべりしていると六甲アイランドでの待ち合わせに遅れちゃう。
昨日、パパから電話があったの、「今日、返し終わったよ。」って。