通則法1条・2条・3条

律子

通則法1条~3条は、国際私法規定ではない、のですよね?

第一章 総則

(趣旨)
第一条 この法律は、法の適用に関する通則について定めるものとする。

第二章 法律に関する通則

法律の施行期日)
第二条 法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。ただし、法律でこれと異なる施行期日を定めたときは、その定めによる。

法律と同一の効力を有する慣習)
第三条 公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する。

第三章 準拠法に関する通則 〔略〕

ワヴィニー

私も同じ理解をしています。

律子

ただ、第1条(趣旨)だけは、法律全体に共通する条項ですから、第二章(法律に関する通則)に加え、第三章(準拠法に関する通則)の趣旨をも規定しているはずですね。

そこで、第1条(趣旨)の文言中、法律(通則法)自体の名称にも含まれている「法の適用に関する通則」について、「①『法』の②『適用』に関する③『通則』」の3つに分け、分析的に読んでみました。

まず、①『法』については、「法律」(第二章の表題)と「準拠法」(第三章の表題)とをまとめて表現したに過ぎず、特段留意すべき点はないと考えました。

また、(前後しますが)③『通則』についても、大要「原則的ルール」といった程度の意味であり、特段留意すべき点はないと考えています。

最後に、②『適用』についても、いわゆる「あてはめ」をするだけの話なので、その文言自体については、特段留意すべき点はないように思われました。
ただ、そうすると、なぜ「適用」のためだけに一つの法律(通則法)まで必要となるのか?、が理解できませんでした。

ワヴィニー

第2章(法律に関する通則)も第3章(準拠法に関する通則)も、その表題においては、最早「適用」という文言を使用していないことから考えても、各章の本質は(当然含意されるものとして)「適用」の点にあるということですね。当然ながら、必要があるからそうしている、ということです。

律子さんは、第三章(準拠法に関する通則)の各条文についてはシッカリ学んでい(き)ますので、ここでは、まず第二章(法律に関する通則)の各条文(2条・3条)における「適用」について見てみましょう。

第2条(法律の施行期日)においては、いわば法律の時間的「適用」範囲(の一部)を定めていますね。

第3条(法律と同一の効力を有する慣習)においては、法律と区別すべき慣習について、その「適用」関係を規定しています。

律子

司法試験等の問題では施行されている法律のみが問題となり、そのような観点は(まず)必要とならないですから、理解が及びませんでした。

確かに「法律」の「適用」について「通則」が必要だと理解しました。

ただ、時間的観点からの第2条がある一方、場所的適用範囲については、定めがないですね。

そうか!
それを定めるのが、国際私法規定、即ち第3章(準拠法に関する通則)ですね?

ワヴィニー

順序立てて検討してみましょう。

まず、「公布」(第2条)が公法上の行為であること、及び「法律と同一の効力を有する」(第3条)と定め規範相互間の序列付けをしていること等から、第2章(法律に関する通則)は、通則法が(日本国の法律として)国内法規範の適用範囲・関係について定めたものと理解できます。
(なお、 「公の秩序又は善良の風俗」と公序条項(42条)との関係、又は 「慣習」の属地性等についても、興味深い問題があり得ますが、ここでは立ち入りません。)

そして、国内における私法関係については、原則として日本法のみが適用され、外国の法律が適用されることはありませんから、第2章(法律に関する通則)においては、そもそも「法律」の場所的適用範囲について規定する必要性がない、と考えておけば良いでしょう。

律子

そうすると、第3章(準拠法に関する通則)においてのみ、(1)外国法の、(2)場所的適用範囲が規定されている、と理解すれば良いのでしょうか?

ワヴィニー

いえ、2つの点で、その理解は正しくありません。

1点目は、勿論、第3章(準拠法に関する通則)においても、日本法の適用が問題となるからです。
第2章(法律に関する通則)の場面とは異なり、国際的私法関係においては、世界的な観点で法律の場所的適用範囲が問題となりますから、当然日本法についても、”one of them”として、その適用が問題となり得ます。

2点目は、少なくとも日本の国際私法は、その沿革等に照らし、法(例:民法)の場所的適用範囲を画する、という発想では立法されていないためです。
通則法は、その全体として、即ち第2章(法律に関する通則)は勿論、第3章(準拠法に関する通則)においてすら、法の場所的適用範囲については正面から定めていない、と理解しています。

律子

場所的適用範囲と言えば、刑法第1編「総則」→第1章「通則」→第1条(国内犯)~第4条の2(条約による国外犯)の規定群を想い出しました。

そこでも「通則」という文言が使用されており、しかも、そこでは場所的適用範囲が規定されていますが…。

ワヴィニー

上記のような理解(通則法は法の場所的適用範囲については正面から定めていない)に基づけば、刑法典中の当該「通則」は、文字通り(公法たる刑法の分野における)通則に過ぎないのであり、(法の適用に関する)通則法の「通則」ではないことは勿論、その「特則」という関係にすらない、ということですね。

日本には、法の場所的適用範囲を正面から定めた通則は存在しない、と私は理解しています。

律子

(法からスタートするのではなく)個別的・具体的な法律関係から出発し、その本拠を探求し、当該本拠の法を適用するのが国際私法、それが通則法第3章「準拠法に関する通則」なのですね。

ワヴィニー

もっとも、例えば、公序条項(42条)等、日本法の適用範囲を画している、と解されうる条項もありますから、上記はあくまで原則であり、例外的には「法からスタートし、その場所的適用範囲を画する個別の規定は存在しうる。」(しかしその通則までは存在しない)と理解しておけば良いでしょう。

なお、国際私法規定の構造として、しばしば(1)法律関係の性質決定→(2)連結点の確定→(3)準拠法の「適用」等の整理がされます。しかし、そこで言う「適用」は、いわば「狭義の『適用』」です。

それに対し、今回の議論は、上記(1)(2)まで含めた「広義の『適用』」、さらには第二章(法律に関する通則)に基づく「適用」まで含めた広い話です(最後の「適用」を「最広義」の適用とまで呼ぶ必要性(・許容性)まではないでしょうが。)。

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