国際的M&A

律子

M&Aローヤーを目指している友人が、予備試験の選択科目について迷っている、という話をしていました。

ワヴィニー

M&Aローヤーになるのであれば、そのような迷いは不要ですね。
いずれ全て学びますから、現時点で、どの法律を学んでも結構です。

まず、これから益々加速する国際社会において、いわゆるクロスボーダーM&Aは「日常」ですから、国際関係法(公法系)国際関係法(私法系)を全く学んでいない経済人はありえず、その理は(経済人の一員たる)M&Aローヤーについても妥当します。

律子

他にも、労働法経済法倒産法知的財産法租税法環境法と6科目もあるのですが、どういうことでしょう?

例えば、労働法は?

ワヴィニー

「企業は人なり」ではありませんが、労働法を知らないM&Aローヤーはいないでしょうね。M&Aの実務においては、労働法に関する対応が大きな課題となることも多いです。
(なお、M&Aローヤーが労働法を知悉している必要まではなく、専門性の高い分野として、専門家に依拠することが通常です。ただ、相応の学習すらしたことはない、という方はいないでしょう。)

律子

経済法は?

ワヴィニー

先程、「国際関係法(公法系)・国際関係法(私法系)を全く学んでいない経済人はありえず」と申し上げましたが、単にその大前提である「経済法」に言及しなかっただけであり、(重要な経済活動たるM&Aにおいて)経済法が重要な点、自明のことでしょう。
(例えば、クロスボーダーのM&Aにおいて、各国経済法の遵守の要否・具体的対応(どこまでやるか)等が重要な検討ポイントとなります。)

なお、経済学のテキストブックにおいても、通常、「独占」が重要なテーマであり、それを規制する独占禁止法(経済法)も同じく重要です。

律子

倒産法は?

ワヴィニー

「未だ生を知らず、焉くんぞ死を知らん」と言っている場合ではなく(笑)、会社法で設立(「生」)を学ぶことに対応し、当然、「死」(解散・清算)の大枠程度は学んでいるはずです。

それを突き詰めると、(会社を対象とする)特別清算・会社更生法まで学ぶ必要があるのですが、その前提として、(個人をも対象とする)破産法・民事再生法は学ぶべきでしょう。

上記一般論を離れても、例えば救済型のM&Aにおいては、倒産法の知見は必須です。

律子

知的財産法は?

ワヴィニー

例えば、M&Aに際してのDD(Due Diligence)においては、労働法と並んで、非常に大きな検討テーマとなります。

とりわけ、メーカー(家電・情報機器・ヘルスケア等)・IT等の分野の企業買収では、メインの検討課題となることも多いです。

律子

租税法は?

ワヴィニー

(笑)

M&Aのストラクチャリングは、むしろ租税法中心に検討されることが多いのです。

勿論、会社法の知識・検討は必要となりますが、(1)前提知識に過ぎない、或いは(2)特殊なストラクチャリングを検討するにあたり相応の重い検討が必要となるのみ、というイメージです。

したがって、標準的なM&A案件においては、実務対応上のメインは租税法、と考えておいた方が実態に即しているでしょう。
(なお、昔は、「M&A」と言えば、専門性が必要なので法律事務所に外部委託、という会社も多かったのですが、近年は(いわゆるM&A法制が整備され始めた平成9年あたりからは)、シンプルな「M&A」であれば企業法務部のみで処理しまっせ、という会社も多くなって来ていますね。)

律子

環境法は?

ワヴィニー

まず、限定的な場面ではありますが、工場を有する企業を買収する等の場面においては、環境法の観点は非常に重要です。

また、より一般的な観点からも、近時、M&Aを含む企業・ファンド等による投資一般において、ESG(環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance))を考慮することが必須となっており、環境法の重要性(その専門家が活躍できる場面)が増大(増加)すると見込まれます。

律子

…結論としては、一番のお奨めは、( 国際関係法(公法系)及び)国際関係法(私法系)だと解釈しました(笑)。

ちなみに「M&A実務家」という言葉も時折耳にしますが?

ワヴィニー

M&Aは、経済・企業社会における「総合格闘技」ですから、ビジネスパーソンは勿論、会計士・税理士・弁護士等、様々なプレイヤーが関与します。

それらを総称して、「M&A実務家」と呼ぶと理解しています。「M&Aローヤー」は、その一員ですね。

私が感じるのは、「どの道(キャリア)を通ってきても、最終的には『M&A実務家』としての総合的な資質が問われる。」ということです。この点については、また別の機会に。

律子

友人には、狭い専門性の虜となることなく(「M&Aローヤー」ではなく)、少なくとも最終的には「M&A実務家」を目指すべし、と伝えておきます。

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