国際裁判管轄条項

律子

過去に当社が甲国で締結した国際契約書(「本件契約書」)において、日本法を選択する準拠法条項に加え、「この契約から又はこの契約に関連して生ずる全ての紛争に係る第一審の専属管轄裁判所は、甲国ゴニンヌキ地方裁判所とする。」という契約条項案があるのですが、どのような意味があるのか解らないのですが…

ワヴィニー

「手続は、法廷地法による。」ということなので、ゴニンヌキ地方裁判所においては、甲国の民事訴訟法等が適用されますね。

また、「法選択は法廷地法による。」(ワヴィニー)ということなので、同じくゴニンヌキ地方裁判所においては、甲国の国際私法(日本の「法の適用に関する通則法」に相当)が適用されますね。

律子

同僚が簡易調査したところ、甲国国際私法においては、「当事者自治の原則」を認めておらず、「契約の成立及び効力は、その締結地法による。」旨が規定されているようです(いわゆる客観的連結を採用)。

ワヴィニー

ということは、ゴニンヌキ地方裁判所に訴訟が係属した場合、当該準拠法条項(日本法を選択)の効力は認められず、契約締結地である甲国の法律が適用されるのでしょうね。

律子

ということは、国際契約において、準拠法条項と国際裁判管轄条項とが規定されている場合、国際裁判管轄地となる国等において当事者自治の原則が認められているか確認しなければいけない、ということでしょうか?

ワヴィニー

理屈上はそうですね。

しかし、実務上、そのような時間・労力・費用等は掛けられないでしょう(必要性)。
また、そもそも当事者自治の原則は国際的に広く認められた原則ですので、調べなくとも大丈夫だろう、という考え方も十分ありえます(許容性)。

律子

しかし、少なくとも本件契約書に関しては、甲国の法律が適用されることになるのですよね?

ワヴィニー

そうでしょうね。

ただ、本件契約書について、律子さんの同僚の方(方)が交渉においてベストを尽くし、その本文に十分な事項が規定されているようであれば、それに反比例し、契約準拠法の重要性は低下しているはずですから、準拠法については、それほど気にしないで良いでしょう(リスクの発現可能性・発現時のインパクト等を勘案した経済合理的判断として)。

それよりは、甲国の裁判所に出向いて訴訟追行等する時間・労力・費用等の負担こそが大きいのではないでしょうか。

律子

訴えられた場合は勿論、訴える場合も大変そうですね…。

ワヴィニー

ということは、国際契約交渉一般においては、準拠法条項と国際裁判管轄条項と、いずれを優先させるべきでしょうか?
(例えば、それらの一方につき譲歩し、他方については「日本」・「東京」等という有利な条件を獲得しようとする場面等において)

律子

…私は、国際裁判管轄条項を優先します。

ワヴィニー

基本的には、それで良いのでしょうね。

ただ、先述の通り、(相手方に譲った)準拠法条項が将来果たすべき役割を極小化できるよう、契約書本文について十分な交渉をし、将来解釈上の疑義等が生じないよう内容を充実させる必要はありますね。

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