法的助言「訴訟リスクは低い」
企業法務部門で働く友人が、弁護士に紛争案件の相談をしたところ、実体法についての説明はほぼなく、最終的に最も重要なポイントとして、「訴訟リスクは低い」(訴訟となる可能性は低い)とのアドバイスを受けた、という話をしていました。
「実体法尽きるところ、手続法現わる」(ワヴィニー)という言葉があるのは、ご存知でしょうか?
いえ。
…そ、そうでしょうね。
それはさておき、もし私がご友人の立場にあれば、(1)まず、実体法上、どのような条文・法的問題が存在し、(2)それにつきどのような対応・解決等が考えられるのかを教えて頂きたいですね。
ただ、結論的に「訴訟リスクは低い」と判れば、それで十分ではないでしょうか?
事案の解決としては良いのですが、企業法務部門の運営の観点からは、(1)様々な実体法上の法的知見等を組織内のDB等に蓄積して行く必要がありますから、「お得感」はないアドバイスですね。また、(2)実体法上の議論を尽くさなければ、各部員個人としての検討力・知見の蓄積もないでしょう。
企業法務部門として、依頼部門に各種説明をする際にも、実体法の説明はそこそこに、「最終的には裁判官の判断なので判らない。」等と仰る方もいますね。それも(現実認識としては当然正しいとしても)、実体法的検討を深めていないという点では、本質的には同様の問題があるように思われますね(手続法のみの観点でも、「判らない」ではなく、見通しを示す必要がありますし)。
なお、「手続法」については、民事訴訟法に限らず、民事保全法・民事執行法等まで含むものと理解しました。
(司法書士が登記「手続」の専門家であることと同様)弁護士は、訴訟「手続」の専門家ですから、訴訟手続・その顛末についての見通しを示すこと自体は非常に重要です。
ただ、クライアントが、個人なのか、企業なのか、その中でも法務部門なのか等により、相手方にとり「ためになる」アドバイスは異なりますからね。
私も、「訴訟リスクは低い」とのアドバイスがなされる文脈・タイミング・アドバイス全体に占める比率等を勘案し、弁護士を選定して行きたいと考えました。
そうですね。
企業法務を例にすると、最も印象が良くないのは、(1)実体法につき(実務経験・感覚等抜きで)「論理的には言えること」(学生でも言える理屈)を「こういう考え方もありえる」等と縷々述べた挙句、結局、(2)単にクライアント企業の行為を「追認」する独り善がり的アドバイスですね。
形式的には「理論武装」なのですが(笑)、実質的には、自己満足(欺瞞!?)になってしまっているアドバイスも多いです。
言い換えれば、マーケット・裁判所等による第三者的評価・検証には耐えられないアドバイスです。
(この点、企業内(法務部門・長から営業部門等に対するアドバイス等)においても、同様の構図があります。それらが通用している背景、及びそれについて問題意識のある経営者等がどのような対応をしているのか等については、また機会を改めて考えてみましょう。)
友人には、上手く弁護士を選定できるよう(最低限、良くない弁護士を選定しないよう)、諸々伝えておきます。
今回は国内の話でしたが、国際私法が関係する国際法務においては、更に難しい課題があるのかも知れませんが。