「手続は、法廷地法による」
時々出てきますが、「手続は、法廷地法による」とは、どういう意味でしょう?
難しく考える必要はありません。
「法の適用に関する通則法」等が、民法等の各国実質法(実体法)を選択するルールとして明文化されています。
それに対し、同じ実質法の中でも、民事訴訟法等(手続法)を選択するルールについては基本的には明文がないのです。そこで、条理に基づき、「手続は、法廷地法による」という準拠法選択ルールが一般に認められている、ということです。
「手続」も単位法律関係の1つであり、例えば「相続は、被相続人の本国法による。」(通則法36条)のと同様、「手続は、法廷地法による。」(明文なし・条理に基づく)も1つの法選択ルールだということです。
その実質的根拠はどこにあるのでしょう?
例えば律子さんが日本の裁判官であるとして、「ブラジル民事訴訟法を適用して訴訟指揮して下さい。」と言われたらどうしますか?
…日本の民事訴訟法を学んだだけですので、どうしたら良いか解かりません。いわゆる「動けない」状況になります…
ということです。
「手続は、法廷地法による」については、様々な根拠が挙げられるのですが、少なくとも現時点では、「手続は、法廷地法による」以外の法選択は非現実的(実務的ではない)、と理解しておけば十分です。
…ただ、それを言うなら、(狭義の)国際私法において、ブラジル法が選択された場合についても同様ではないでしょうか?私が日本の裁判官であるとして、基本的には日本の民法等しか学んでいないのですから。
良い質問ですね。
しかし、それはおそらく、実体法と手続法との違いが腑に落ちていないから、ということに思われます。
実体法は、ご承知の通り、要件・効果からなります。法律の文言を解釈して、それら要件・効果について一義的な解釈をし、事実を当てはめる。どちらかと言うと理論的な話です。極論すると、例えば、ブラジルの法律家の意見に基づき、ブラジル法に当てはめれば、事案の解決はできます。
それに対し、手続法は、それに基づいて裁判官が実際に「動く」のですから、自分の知らないルールに基づいて「動く」ということは難しいでしょうね(自分が良く知っている・体に染み付いているルールがあると尚更、と言えるかも知れません。)。
卑近な例でいえば、サッカーの審判が、いきなりラグビーのルールの下で審判をしろといわれてもできないのと同様、という感じでしょうか(笑)。
法選択・民事訴訟法と言えば、国際裁判管轄について、合意管轄(民訴法3条の7)が認められていましたが…
その点は、日本が法廷地である場合、(1)いわば「法選択は法廷地法による」という「準拠法ルール」(ある種の強行法規)に基づき、通則法(明文)が適用され、そこで債権の準拠法について法選択(通則法7条)が認められていることと同様です。
即ち、(2)(日本が法廷地である場合)「手続は、法廷地法による」という準拠法ルール(条理)に基づき、日本の民事訴訟法(明文)が適用され、そこで合意管轄(民訴法3条の7)が認められている、ということです。
要するに、当事者が「立法」を選択(通則法7条)しているのと同様、「司法」も選択している(民訴法3条の7)ということです。後者については、土地管轄の問題として、単に「場所」を選択しているだけ、だと考えがちなのですが。
なお、別途学んだ通り、日本の民事訴訟法は日本の裁判所の国際裁判管轄を規律するのみですから、合意管轄(民訴法3条の7)と債権法に関する法選択(通則法7条)とは大いに異なる点、念のため付言しておきます(後者は外国法をも選択可能)。
また、上述の「法選択は法廷地法による」は、私がそう呼んでいるというだけであり、一般的な命題ではない点、ご留意を。改めてお話する機会を設けることとします。
いろいろ考え始めると、要件事実論との関係等も気にはなりますが…、またの機会に。
そうしましょう。
実は、先程律子さんが仰った「(狭義の)国際私法において、ブラジル法が選択された場合についても同様ではないでしょうか?私が日本の裁判官であるとして、基本的には日本の民法等しか学んでいないのですから。」という点についても、一応前述の通り申し上げはしましたが、更に考えると難しい問題がありますよ。
ではまた。