【第26回】 遺言の準拠法
…というわけなんです。
遺言については、最近、身近な話題になって来ているな、とは感じていたのですが…
テーマ
1.国際裁判等管轄等
● N/A
2.準拠法選択等
● 遺言(実質・方式)の準拠法
3.外国判決等の承認・執行等
● N/A
事案
● 律子の伯父A(甲国人・日本在住)は、事理弁職能力は有していたものの、行動制御能力は欠く状況にあったところ、日本において、「私の銀行預金は全て日本国に寄付する。」旨の自筆証書遺言(「本件遺言」)をした。
● 律子の伯母B(日本人・日本在住)は、本件遺言により自らの遺留分が侵害された等として、日本の裁判所において、本件遺言の無効確認訴訟を提起した。
【甲国民法】
●遺言者は、遺言をする時においてその事理弁識能力を有しなければならない。
●遺言は、パブリカによってしなければならない。
なお、甲国の国際私法は、日本法と同趣旨の規定を有するものとする。
本事案も、日本・甲国に跨ることから、「国際的私法関係」に属しますね。
本事案では、訴えが提起されていますので、国際裁判管轄が問題となります。
1.国際裁判等管轄等
(1)民事・人事・家事の区別
遺言無効確認の訴えは、「民事」・「人事」・「家事」のいずれに属する訴えなのでしょうか?
各訴えについては、これまでお話して来た通りですので、自分なりに考えてみて下さい。
さて、本事案においても、日本・甲国の法律が異なることから、準拠法選択が問題となります。
2.準拠法選択等
(1)遺言の成立及び効力
法の適用に関する通則法
(遺言)
第三十七条 遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。
2 遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。
● 趣旨
本国法主義
● 単位法律関係
・ 遺言の成立及び効力
・ 遺言の取消し
● 連結点
・ 遺言者の本国(遺言成立当時)
・ 遺言者の本国(遺言取消し当時)
● 準拠法
・ 遺言者の本国法(遺言成立当時)
・ 遺言者の本国法(遺言取消し当時)
本事案においては、伯父(A)の(本件遺言当時の)本国法は甲国法ですから、その適用の結果、(行動制御能力を欠いてはいたものの)事理弁識能力は有していた以上、本件遺言は有効になります。
そうとは限りません。
遺言についても、その「方式」が、独自の単位法律関係として問題となり、その準拠法の内容とその適用結果次第では、事案の結論が異なりえます。
この点、通則法ではなく、特別法が規律しています。「遺言の方式の準拠法に関する法律」です。全8条の短い法律ですから、この機会に一読はしておきましょう。ただ、現時点では、同2条を(余裕があれば3条も)知っておけば十分です。
(なお、特別法の存在・名称のみを知っていて、将来の学習に際しての追加的負担があると想定していたところ、いざ条文を見てみると大した分量の法律ではなかった、ということは往々にしてあることです。民法における失火責任法、或いは行政法における行政代執行法等がその例ですね。「イホジホ」についても同様です。)
(2)遺言の方式
法の適用に関する通則法
(適用除外)
第四十三条 (略)
2 この章の規定は、遺言の方式については、適用しない。ただし、第三十八条第二項本文、第三十九条本文及び第四十条の規定の適用については、この限りでない。
遺言の方式の準拠法に関する法律
(趣旨)
第一条 この法律は、遺言の方式の準拠法に関し必要な事項を定めるものとする。
(準拠法)
第二条 遺言は、その方式が次に掲げる法のいずれかに適合するときは、方式に関し有効とする。
一 行為地法
二 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
三 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
四 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
五 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法
第三条 遺言を取り消す遺言については、前条の規定によるほか、その方式が、従前の遺言を同条の規定により有効とする法のいずれかに適合するときも、方式に関し有効とする。
(共同遺言)
第四条 前二条の規定は、二人以上の者が同一の証書でした遺言の方式についても、適用する。
(方式の範囲)
第五条 遺言者の年齢、国籍その他の人的資格による遺言の方式の制限は、方式の範囲に属するものとする。遺言が有効であるために必要とされる証人が有すべき資格についても、同様とする。
(本国法)
第六条 遺言者が地域により法を異にする国の国籍を有した場合には、第二条第二号の規定の適用については、その国の規則に従い遺言者が属した地域の法を、そのような規則がないときは遺言者が最も密接な関係を有した地域の法を、遺言者が国籍を有した国の法とする。
(住所地法)
第七条 第二条第三号の規定の適用については、遺言者が特定の地に住所を有したかどうかは、その地の法によつて定める。
2 第二条第三号の規定の適用については、遺言の成立又は死亡の当時における遺言者の住所が知れないときは、遺言者がその当時居所を有した地の法を遺言者がその当時住所を有した地の法とする。
(公序)
第八条 外国法によるべき場合において、その規定の適用が明らかに公の秩序に反するときは、これを適用しない。
● 趣旨
(遺言の方式の準拠法に関する法律2条)
遺言をできるだけ有効とするため、方式については、広く選択的連結を認めるもの(いわゆる遺言優遇の原則の現われ)。
本事案において、伯父(A)は「日本在住」であり、日本に住所・常居所があると認められます。その上で、甲国法上の「パブリカ」による遺言はしていないものの、日本において、自筆証書遺言(民法968条)はしています。したがって、本件遺言は方式を満たしています(遺言の方式の準拠法に関する法律2条1号・3号・4号)。
本件遺言は、遺言の方式の準拠法に関する法律2条の1号(行為地)によって、また3号(住所地)、さらには4号(常居所地)いずれによっても方式上有効、ということですから、いかに広く選択的適用が認められているかが実感できるはずです。
さて、伯母さん(B)の遺留分が侵害されているか否かについては、遺言の実質・形式(方式)いずれの問題でもない、という点についても、確認しておいて下さい。
● 遺言(留意点3点)
・ 遺言の準拠法の適用範囲は、遺言の成立及び効力、及び遺言の取消し等、遺言自体に係る事項に限定されている。
・ 上記の点とは別に、遺言の対象となる事項(相続等)については、当該事項の準拠法(相続等の準拠法)による。
・ 上記2点とは別に、遺言の方式については、遺言の方式に関する準拠法による。
3.外国判決等の承認・執行等
(1)民事・人事・家事の区別
【設例】
● 律子の伯父A(甲国人・甲国在住)は、事理弁職能力は有していたものの、行動制御能力は欠く状況にあったところ、日本において、「私の銀行預金は全て日本国に寄付する。」旨の自筆証書遺言(「本件遺言」)をした。
● 律子の伯母B(日本人・甲国在住)は、本件遺言により自らの遺留分が侵害された等として、日本の裁判所において、本件遺言の無効確認訴訟を提起し、勝訴した。
● Bは、日本において当該勝訴判決が効力を有しているのか、知りたいと考えている。
【甲国民法】
●遺言者は、遺言をする時においてその事理弁識能力を有しなければならない。
●遺言は、パブリカによってしなければならない。
なお、甲国の国際私法は、日本法と同趣旨の規定を有するものとする。
本事案と設例とを比較すると、赤文字の部分が変更されていますね。甲国において、遺言無効確認の訴えは、「民事」・「人事」・「家事」のいずれの問題なのでしょうか?
また、外国である甲国における確認判決に関しては、その性質上、日本における執行は問題となりませんが、承認について特別な問題があるのでしょうか?
日本における各訴えについては、これまでお話して来た通りですが、甲国における規律は不明ですね。
その前提で、本設例については、ご指摘の確認判決の承認の点を含め、自分なりに考えておいて下さい。
まとめ
1.国際裁判等管轄等
● N/A
2.準拠法選択等
● 通則法37条1項・2項
● 通則法43条2項
● 遺言の方式の準拠法に関する法律
3.外国判決等の承認・執行等
● N/A
最後に、甲国法等の外国法への向き合い方については、こちらを参照しておいて下さい。
●「外国法(向き合い方)~準拠法として」
遺言は、人生の有終の美を確保するためには、大切な要素の1つですね。適切な遺言を書くためには、人生を通じ見識を養う必要があるように思われます。
「養う」といえば…
【第27回】 扶養義務の準拠法