【第23回】 非嫡出親子関係の準拠法
…というわけなんです。
Cは、外見はいかにも誠実そうなのですが、実は…
目次
テーマ
1.国際裁判等管轄等
● 非嫡出親子関係に関する国際裁判管轄
2.準拠法選択等
● 非嫡出親子関係の準拠法
3.外国判決等の承認・執行等
● 間接管轄
事案
● 律子の伯母A(甲国人)は、B(乙国人)と知り合い、日本において同棲していた。
● その後、Aは、Bが仕事のため長期間乙国に駐在している状況において、寂しさのあまり各種相談に応じてくれていたC(丙国人)と関係を持ち、Cの子D(甲国人)を出産した。
● その後、Cは日本国籍を取得したことにより丙国の国籍を離脱し、暫くACD3名で日本に居住していた。
● しかし、Cは、Aとの諍いからDを認知することなく単身日本を去り、現在は丙国に居住している。
● Aは、日本の裁判所において、Cに対し、D(3歳6ヶ月)の法定代理人として認知の訴えを提起した。
【丙国民法】
「子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、子の出生の日から3年を経過したときは、この限りでない。」
なお、甲国・乙国・丙国の国際私法は、日本法と同趣旨の規定を有するものとする。
本事案も、日本・甲国に跨ることから、「国際的私法関係」に属しますね。
本事案では、訴えが提起されていますので、国際裁判管轄が問題となります。
1.国際裁判等管轄等
(1)最後の共通住所地・原告住所地管轄
人事訴訟法
第二節 裁判所
第一款 日本の裁判所の管轄権
(人事に関する訴えの管轄権)
第三条の二 人事に関する訴えは、次の各号のいずれかに該当するときは、日本の裁判所に提起することができる。
一 身分関係の当事者の一方に対する訴えであって、当該当事者の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
二 身分関係の当事者の双方に対する訴えであって、その一方又は双方の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
三 身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
四 身分関係の当事者の双方が死亡し、その一方又は双方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
五 身分関係の当事者の双方が日本の国籍を有するとき(その一方又は双方がその死亡の時に日本の国籍を有していたときを含む。)。
六 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、当該身分関係の当事者が最後の共通の住所を日本国内に有していたとき。
七 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方が行方不明であるとき、他の一方の住所がある国においてされた当該訴えに係る身分関係と同一の身分関係についての訴えに係る確定した判決が日本国で効力を有しないときその他の日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき。
本事案については、先程見た7号に該当する特別の事情はなさそうですし…。
まず、現在Cの「住所」・「居所」が日本国内に存在しないことから、1号に該当しないことは確かです。
また、本事案における訴えは、原告D(法定代理人A)から、生存する被告Cに対する訴えですから、「双方に対する訴え」・「死亡」等と規定する2号から4号にも該当しないことは明らかです。現時点では、それらの条文の趣旨は良く解かりませんが…。
さらに、現在Cは日本人であるものの、Dは甲国人ですから、「双方が日本の国籍」(5号)にも該当しません。
残る6号はどうでしょうか…
● 趣旨
(人訴法3条の2第6号が、当事者の最後の共通住所地かつ原告住所地管轄を国際裁判管轄原因とした趣旨)
1.「最後の共通の住所」を管轄原因とした趣旨
(1)「身分関係の当事者双方に関連性が強い場所であるということができるほか、当該当事者双方にとって衡平な管轄原因であるということができること」
(2)「提起された人事に関する訴えの対象となっている身分関係に関連する証拠が存在する蓋然性が高いと考えられること」
2.「日本国内に住所がある」ことを管轄原因とした趣旨
「当該訴えが実際に提起された時点においては、時間の経過によって関係する証拠が散逸する等、我が国が当該訴えについて審理・裁判するには十分な関連性を有さなくなっている可能性」があること
【内野・一問一答 33頁】
本事案における訴えは、「日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方」であるD(法定代理人A)からのものです。そして、「暫くACD3名で日本に居住していた」ことから、CDは「最後の共通の住所を日本国内に有していた」と考えられます。したがって、日本の裁判所の国際裁判管轄が認められますね(人訴法3条の2第6号)。
ただ、「特別の事情」(人訴法3条の5)に基づく訴え却下の可能性はあります。財産関係事件における「特別の事情」(民訴法3条の9)と類似する条文ですね。
本事案においては、その適用はなさそうですが、この機会に再度条文を一読はしておいて下さい。なお、先程見た「特別の事情」(人訴法3条の2第7号)とは異なる点、再度注意しておいて下さい。
(2)特別の事情
人事訴訟法
(特別の事情による訴えの却下)
第三条の五 裁判所は、訴えについて日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合においても、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地、当該訴えに係る身分関係の当事者間の成年に達しない子の利益その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、その訴えの全部又は一部を却下することができる。
日本の裁判所の国際裁判管轄が認められるとして、甲国法・乙国法・丙国法・日本法の内容が異なっているであろうことから、次に準拠法選択が問題となりますね。
2.準拠法選択等
(1)非嫡出親子関係の成立(子の出生の当時)
法の適用に関する通則法
(嫡出でない子の親子関係の成立)
第二十九条 嫡出でない子の親子関係の成立は、父との間の親子関係については子の出生の当時における父の本国法により、母との間の親子関係についてはその当時における母の本国法による。(略)
2 (略)
3 (略)
● 趣旨
(通則法29条1項前段が、父・母の本国法を準拠法とした趣旨)
1.「子の本国法によるとの考え方…には、子の本国法の決定は、親子関係の存在を前提とするから、循環論に陥るとの難点がある」
(「認知に関しては、子の本国法は、出生とともに決まるのが通例であって、問題が生じないが、出生による父子関係に基づき父の国籍が与えられる場合は」)
2.「出生したばかりの子の属人法よりも、むしろ親の属人法に考慮が払われるべきであるとも考えられる」
3.「嫡出親子関係の成立の準拠法と…できる限り一致させておくのは望ましい」等
【南・解説 116・117頁参照】
● 単位法律関係
・ 嫡出でない子の父との間の親子関係の成立
・ 嫡出でない子の母との間の親子関係の成立
● 連結点
・ 父の国籍(子の出生の当時)
・ 母の国籍(子の出生の当時)
● 準拠法
・ 父の本国法(子の出生の当時)
・ 母の本国法(子の出生の当時)
本事案においては、父CとDとの間の親子関係が問題となっていますから、Dの出生の当時のCの本国法である丙国法が準拠法となります。
その結果、丙国民法においては認知の訴えの出訴期間が「子の出生の日から3年」とされているところ、Dは既に3歳6ヶ月に達していますから、認知の訴えは却下されることとなります。
まだ認知の可能性は残っていますよ。
(2)非嫡出親子関係の成立(認知の当時)
法の適用に関する通則法
(嫡出でない子の親子関係の成立)
第二十九条 嫡出でない子の親子関係の成立は、父との間の親子関係については子の出生の当時における父の本国法により、母との間の親子関係についてはその当時における母の本国法による。(略)
2 子の認知は、前項前段の規定により適用すべき法によるほか、認知の当時における認知する者又は子の本国法による。(略)
3 (略)
● 趣旨
(通則法29条2項が、認知する者又は子の本国法を準拠法とした趣旨)
「認知はできるだけ容易に認め、親子関係の成立をよりたやすくするため…、選択的連結を導入した」
(なお、「認知に関しては、子の本国法は、出生とともに決まるのが通例」であることから、循環論に陥ることなく子の本国法も選択可能であることを前提として)
【南・解説 116・119頁参照】
本事案において、認知の当時(認知が問題となっている現在)のCの本国法である日本法が準拠法になるとすると、親が生存している間の認知の訴えについては期間制限は存在しないことから(民法787条参照)、認知の訴えは却下されないこととなります。
選択的適用が採用されていることにより、DがCの子だと認められる可能性が残りましたから、基本的にはDにとり良い結果と言えるようには思われますね。
ただ、それが必ずしも良いとは言えない場合もあるのです。設例を見てみましょう。
(2)セーフガード条項
【設例】
(本事案において、Aが認知の訴えを提起しないまま時が経過したとする。)
● Dは、3歳の時に始めたサッカーの才能が開花し、17歳にして、年俸10億円プレーヤーとなった。
● そのことを知ったCは、それまでADのことを一顧だにしなかったにも関わらず、将来の扶養等を期待してか、突如丙国法に基づきCを認知した。
● そこで、Aは、日本の裁判所において、Cに対し、Dの法定代理人として認知の取消しの訴えを提起した。
【甲国民法】
「未成年の子は、その法定代理人の承諾がなければ、これを認知することができない。」
法の適用に関する通則法
(嫡出でない子の親子関係の成立)
第二十九条 嫡出でない子の親子関係の成立は、父との間の親子関係については子の出生の当時における父の本国法により、母との間の親子関係についてはその当時における母の本国法による。この場合において、子の認知による親子関係の成立については、認知の当時における子の本国法によればその子又は第三者の承諾又は同意があることが認知の要件であるときは、その要件をも備えなければならない。
2 子の認知は、前項前段の規定により適用すべき法によるほか、認知の当時における認知する者又は子の本国法による。この場合において、認知する者の本国法によるときは、同項後段の規定を準用する。
3 (略)
● 趣旨
(通則法29条1項後段・2項後段が、子の本国法上の要件具備を求める趣旨)
(「子の利益の観点から、認知の準拠法を複数にしているが、そのようにした場合、」)
「特に子が成人した場合において、子が認知されたくないのに、親が扶養等を目的に認知するという結果を招来することになるので、そのセーフガードを設ける必要があるから」
【南・解説 121・122頁参照】
本設例において、Cは、Dの出生当時のCの本国法たる丙国法に基づき認知をしていますから、一見、有効な認知に思われます。
しかし、認知当時のDの本国法である甲国法上、Dを認知するにはその法定代理人Aの承諾が必要ですから、その条件を充足しない以上、Cによる認知は取り消されることになりそうです(通則法29条1項後段)。
そして、それは、認知当時のCの本国法たる日本法に基づき認知をした場合でも同様です(通則法29条2項後段)。
さて、通則法29条には第3項もありますが、一読しておけば十分です。
(3)死亡の場合
法の適用に関する通則法
(嫡出でない子の親子関係の成立)
第二十九条 嫡出でない子の親子関係の成立は、父との間の親子関係については子の出生の当時における父の本国法により、母との間の親子関係についてはその当時における母の本国法による。この場合において、子の認知による親子関係の成立については、認知の当時における子の本国法によればその子又は第三者の承諾又は同意があることが認知の要件であるときは、その要件をも備えなければならない。
2 子の認知は、前項前段の規定により適用すべき法によるほか、認知の当時における認知する者又は子の本国法による。この場合において、認知する者の本国法によるときは、同項後段の規定を準用する。
3 父が子の出生前に死亡したときは、その死亡の当時における父の本国法を第一項の父の本国法とみなす。前項に規定する者が認知前に死亡したときは、その死亡の当時におけるその者の本国法を同項のその者の本国法とみなす。
● 趣旨
(通則法29条3項)
・子の出生前に父が死亡した場合、父の「本国法」が存在しなくなることから、かかる事態に対応するための見做し規定
(通常、母が子の出生前に死亡することはない。父についてのみ規定。)
・「認知する者」(母も該当する可能性あり)が死亡した場合についても同様。
通則法28条2項と同様の条項ですね。
それでは最後に、簡単に設例を見ておきましょう。
3.外国判決等の承認・執行等
【設例】
(本事案において、Aが認知の訴えを提起しないまま時が経過したとする。)
● その後、Bは乙国に駐在したままであったものの、ある日、Dの存在・出生の経緯等を知った。
● Bは、一度は激怒したものの、①Aが反省しDを認知しないCとの関係を完全に解消していること、②Dが心身とも順調に育ち始めていること、及び③長期間Aを蔑ろにして来た自らにも反省する点があると考えたこと等から、自分とDとの間には血縁関係がないことを認識しつつDを認知した。
● しかし、Bの父Eは、「Dは自分の孫ではない」と主張し、乙国の裁判所において、BDに対し、当該認知の無効の訴えを提起し、勝訴の確定判決を得た。
(1)被告住所地管轄
(外国裁判所の確定判決の効力)
第百十八条 外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
一 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
二 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
三 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
四 相互の保証があること。
● 人事訴訟事件に関する外国判決の承認(争いあり)
・ 現時点では、財産関係法事件同様、民訴法118条が全面的に適用されると考えておけば十分。
(反対説として、国際的な家族関係の安定・円滑等を理由に、例えば民訴法118条4号の要件は不要とすべき、等の考え方が存在する。)
本設例においては、BD間に血縁関係が存在しないことから、乙国の裁判所において、Eの訴えが容れられたと理解しました。
念のため、国際裁判管轄について、間接管轄に関する鏡像理論により、人訴法3条の2をチェックしますと…
人事訴訟法
第二節 裁判所
第一款 日本の裁判所の管轄権
(人事に関する訴えの管轄権)
第三条の二 人事に関する訴えは、次の各号のいずれかに該当するときは、日本の裁判所に提起することができる。
一 身分関係の当事者の一方に対する訴えであって、当該当事者の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
二 身分関係の当事者の双方に対する訴えであって、その一方又は双方の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
三 身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
四 身分関係の当事者の双方が死亡し、その一方又は双方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
五 身分関係の当事者の双方が日本の国籍を有するとき(その一方又は双方がその死亡の時に日本の国籍を有していたときを含む。)。
六 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、当該身分関係の当事者が最後の共通の住所を日本国内に有していたとき。
七 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方が行方不明であるとき、他の一方の住所がある国においてされた当該訴えに係る身分関係と同一の身分関係についての訴えに係る確定した判決が日本国で効力を有しないときその他の日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき。
● 趣旨
(人訴法3条の2第2号)
・被告(の少なくとも一方の)住所地原則
B(甲国に長年駐在中)の住所は甲国にあると認められますから、人訴法3条の2第2号(の鏡像)により、「身分関係の当事者の双方」たるBDに対する訴えにおいて、その「一方」たるBの住所が乙国内にある場合として、乙国裁判所の国際裁判管轄(間接管轄)が認められることとなります(民訴法118条1号)。
本設例においては、乙国における判決は、問題なく日本において承認されそうですね。
ここでは、人訴法3条の2第2号を素材に、間接管轄の存否の判断基準(鏡像理論)の具体的イメージを持つことができれば十分です。
まとめ
1.国際裁判等管轄等
● 人訴法3条の2第6号
● 人訴法3条の5
2.準拠法選択等
● 通則法29条1項・2項・3項
3.外国判決等の承認・執行等
● 民訴法118条1号
● 人訴法3条の2第2号
最後に、甲国法等の外国法への向き合い方については、こちらを参照しておいて下さい。
●「外国法(向き合い方)~準拠法として」
先程気付いたのですが、その万年筆はなかなかの年代物ですね。純正のインクを探すのが大変でしょう。仮に見つかっても相当値段が張るでしょうし。
「純正」といえば…
【第24回】 準正の準拠法