【第22回】 嫡出親子関係の準拠法

律子

…というわけなんです。

意味は良く解からないのですが、伯父の幼少時代のあだ名が「ラグビーボール」だった一方、Cは周囲から「卓球」と呼ばれているらしく…

テーマ

1.国際裁判等管轄等
● 嫡出親子関係に関する国際裁判管轄

2.準拠法選択等
● 嫡出親子関係の準拠法

3.外国判決等の承認・執行等
● 間接管轄

事案

● 律子の伯父A(日本人・甲国在住)は、B(甲国人・甲国在住)と婚姻し、甲国において婚姻生活を開始した。

● 暫くしてBは懐胎し、AB間の婚姻の成立のから210日を経過した後、C(日本人・甲国在住)が出生した。

● しかし、Aは、Cの風貌が全く自分に似ていないこと等から、Cが友人D(甲国人・甲国在住)の子ではないかと考えるに至った。

● そこで、Cの出生から1年半後、Aは単身日本に帰国した後、日本の裁判所において、Cに対し、嫡出否認の訴えを提起した。

【甲国民法】
● 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
● 婚姻の成立の日から205日を経過した後…に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
● 嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から2年以内に提起しなければならない。


なお、甲国国際私法は、日本法と同趣旨の規定を有するものとする。

ワヴィニー

本事案も、日本・甲国に跨ることから、「国際的私法関係」に属しますね。

本事案では、訴えが提起されていますので、国際裁判管轄が問題となります。

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1.国際裁判等管轄等

(1)本国管轄

人事訴訟法
第二節 裁判所

第一款 日本の裁判所の管轄権

(人事に関する訴えの管轄権)
第三条の二 人事に関する訴えは、次の各号のいずれかに該当するときは、日本の裁判所に提起することができる。
 一 身分関係の当事者の一方に対する訴えであって、当該当事者住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
 二 身分関係の当事者の双方に対する訴えであって、その一方又は双方住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
 三 身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
 四 身分関係の当事者の双方死亡し、その一方又は双方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
 五 身分関係の当事者の双方日本国籍を有するとき(その一方又は双方がその死亡の時に日本の国籍を有していたときを含む。)。
 六 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、当該身分関係の当事者が最後の共通の住所を日本国内に有していたとき。
 七 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方が行方不明であるとき、他の一方の住所がある国においてされた当該訴えに係る身分関係と同一の身分関係についての訴えに係る確定した判決が日本国で効力を有しないときその他の日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき。

律子

本事案については、先程見た7号に該当する特別の事情はなさそうですし…。

まず、Cの「住所」・「居所」が日本国内に存在したことはないことから、1号・6号に該当しないことは確かです。

また、本事案における訴えは、伯父(A)から、生存するCに対する訴えですから、「双方に対する訴え」・「死亡」等と規定する2号から4号にも該当しないことは明らかです。現時点では、それらの条文の趣旨は良く解かりませんが…。

あっ、「双方が日本の国籍」(5号)との文言があります!

● 趣旨
(人訴法3条の2第5号が、当事者双方が日本の国籍を有していることを国際裁判管轄原因とした趣旨)

当事者双方にとって衡平…。また、一般的には、日本の国籍を有する者の身分関係については我が国として関心を有すべきものであり、また、日本の国籍を有する者は、日本に近親者の住所等があるなど、我が国との関連性を有しているものと考えられることなどを考慮したもの」

【内野・一問一答 39頁】

ワヴィニー

本事案については、訴訟当事者たる伯父さん(A)・Cの双方が「日本の国籍を有する」(人訴法3条の2第5号)ことから、日本の裁判所の国際裁判管轄が認められますね。

ただ、「特別の事情」(人訴法3条の5)に基づく訴え却下の可能性はあります。財産関係事件における「特別の事情」(民訴法3条の9)と類似する条文ですね。

本事案においては、その適用はなさそうですが、この機会に条文を一読はしておいて下さい。なお、先程見た「特別の事情」(人訴法3条の2第7号)とは異なる点、再度注意しておいて下さい。

(2)特別の事情

人事訴訟法

(特別の事情による訴えの却下)
第三条の五 裁判所は、訴えについて日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合においても、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地、当該訴えに係る身分関係の当事者間の成年に達しない子の利益その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、その訴えの全部又は一部を却下することができる。

律子

日本の裁判所の国際裁判管轄が認められるとして、甲国法と日本法(民法772条・777条等)の内容が異なっていることから、次に準拠法選択が問題となりますね。

2.準拠法選択等

(1)嫡出推定

法の適用に関する通則法

(嫡出である子の親子関係の成立)
第二十八条 夫婦の一方本国法子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする。
2 (略)

● 趣旨
(通則法28条1項が、夫婦の一方の本国法を選択的に嫡出親子関係成立の準拠法とした趣旨)

1.「子が嫡出であるかどうかは父母が婚姻しているかどうかという親側の事情で決められる事柄である…から、その準拠法は、親の属人法とするのが相当である」

2.「子の保護の観点…からすれば、より広く複数の選択肢を認めることが望ましいし、子が嫡出となるかどうかは、父のみならず母にも利害関係があり、この両方の要請を満たす」

【小出・一問一答 106・107頁参照】

● 単位法律関係 
・ 嫡出推定(婚姻中に懐胎した子に係る推定の有無・推定を受ける期間等)
・ 嫡出否認(要件・方法・行使期間等)

● 連結点
・ 夫婦の一方の国籍

● 準拠法
・ 夫婦の一方の本国法

律子

本事案においては、Cの出生当時の伯父(A)の本国法たる日本法又は伯母(B)の本国法たる甲国法により、Cが嫡出子とされれば、Cは伯父(A)の嫡出子となるのですね。その点、Cは「婚姻の成立のから210日を経過した後」に生まれていますので、日本法(「200日」(民法772条2項))によっても、また甲国法(「205日」)によっても、嫡出子となります。

本事案では日本法・甲国法双方の要件を充足しますが、仮に甲国法が「215日」基準を採用していても、日本法(200日基準)が選択的に適用されることから、Cは嫡出子と認められるのですね。

通則法28条には、第2項もありますね。

法の適用に関する通則法

(嫡出である子の親子関係の成立)
第二十八条 夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする。
2 子の出生前死亡したときは、その死亡の当時における夫の本国法を前項の夫の本国法とみなす

● 趣旨
(通則法28条2項)

・子の出生前に夫婦の一方が死亡した場合、当該一方につきよるべき「本国法」が存在しなくなることから、かかる事態に対応するための見做し規定。
・しかし、通常、妻が子の出生前に死亡することはないため、夫についてのみ規定している。

ワヴィニー

通則法28条2項については、一読しておけば結構です。

(2)嫡出否認

● 嫡出否認
嫡出否認の準拠法につき争いあり。現時点では下記2点を理解しておけば良い。ここではそれ以上立ち入らない。
1.嫡出否認については、嫡出推定と表裏一体の問題として、通則法28条の適用範囲に入る。
2.嫡出親子関係の成立を容易にする通則法28条の趣旨に照らし、夫婦の本国法双方の嫡出否認の要件を充足しなければ、嫡出否認は認められない。

律子

本事案においては、伯父(A)は「Cの出生から1年半後」に嫡出否認の訴えを提起しています。それは、甲国法上の出訴期間(2年以内)は充足するものの、日本法上の出訴期間(「1年以内」(民法777条))は充足しません…。

したがって、伯父(A)の訴えは認められず、Cが嫡出子であるとの推定は否認されないことになるのですね。

ワヴィニー

その場合、次にどのような問題を検討すべきか、どのように処理されるべきか、現時点では自分なりにで結構ですので、考えておいて下さい。

通則法28条の表題(「嫡出である子の親子関係の『成立』」)にある通り、これまでの我々の検討対象はあくまで嫡出親子関係の「成立」の問題ですから、それを前提とした「効力」の問題については別途準拠法選択が必要であるという点については、少なくとも理解をしておきましょう。

現時点では、次の条文を一読しておいて下さい。

(3)親子間の法律関係

(親子間の法律関係)
第三十二条 親子間の法律関係は、子の本国法が父又は母の本国法(父母の一方が死亡し、又は知れない場合にあっては、他の一方の本国法)と同一である場合には子の本国法により、その他の場合には子の常居所地法による。

律子

通則法28条からは離れた箇所にある条文なので、気付きませんでした…。

ただ、「常居所」含め、既に解説頂いた概念・思考方法等に依拠することで、凡その趣旨・内容は理解できるようには思われます。

ワヴィニー

それでは最後に、簡単に設例を見ておきましょう。

3.外国判決等の承認・執行等

【設例】

● 律子の伯父A(日本人・甲国在住)は、B(甲国人・甲国在住)と婚姻し、甲国において婚姻生活を開始した。

● 暫くしてBは懐胎し、AB間の婚姻の成立のから210日を経過した後、C(日本人・甲国在住)が出生した。

● しかし、Aは、Cが全く自分に似ていないことから、Cが友人D(甲国人・甲国在住)の子ではないかと考えるに至った。

● そこで、Cの出生から1年半後、Aは単身日本に帰国した後、甲国の裁判所において、Cに対し、嫡出否認の訴えを提起し、勝訴した

【甲国民法】
● 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
● 婚姻の成立の日から205日を経過した後…に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
● 嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から2年以内に提起しなければならない。


なお、甲国国際私法は、法適用通則法とは異なり、嫡出親子関係の成立(否認を含む)につき、「子の常居所地法」のみを準拠法とする。

(1)被告住所地管轄

(外国裁判所の確定判決の効力)
第百十八条 外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
 一 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
 二 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
 三 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
 四 相互の保証があること。

● 人事訴訟事件に関する外国判決の承認(争いあり)

・ 現時点では、財産関係法事件同様、民訴法118条が全面的に適用されると考えておけば十分。
  (反対説として、国際的な家族関係の安定・円滑等を理由に、例えば民訴法118条4号の要件は不要とすべき、等の考え方が存在する。)

律子

本設例においては、「子の常居所地法」のみを準拠法とする甲国国際私法により、C(甲国在住)の常居所地法と考えられる甲国法が適用されたのですね。その結果、伯父(A)の訴えは出訴期間内(2年以内)に提起されていることから、訴えが容れられたと理解しました。

念のため、国際裁判管轄について、間接管轄に関する鏡像理論により人訴法3条の2をチェックしますと…

人事訴訟法
第二節 裁判所

第一款 日本の裁判所の管轄権

(人事に関する訴えの管轄権)
第三条の二 人事に関する訴えは、次の各号のいずれかに該当するときは、日本の裁判所に提起することができる。
 一 身分関係の当事者の一方に対する訴えであって、当該当事者の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
 二 身分関係の当事者の双方に対する訴えであって、その一方又は双方の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
 三 身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
 四 身分関係の当事者の双方が死亡し、その一方又は双方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
 五 身分関係の当事者の双方が日本の国籍を有するとき(その一方又は双方がその死亡の時に日本の国籍を有していたときを含む。)。
 六 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、当該身分関係の当事者が最後の共通の住所を日本国内に有していたとき。
 七 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方が行方不明であるとき、他の一方の住所がある国においてされた当該訴えに係る身分関係と同一の身分関係についての訴えに係る確定した判決が日本国で効力を有しないときその他の日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき。

● 趣旨
(人訴法3条の2第1号)

・被告の保護(被告住所地原則)

律子

C(甲国在住)の住所は甲国にあると認められますから、人訴法3条の2第1号(の鏡像)により、甲国裁判所の国際裁判管轄(間接管轄)が認められることとなります(民訴法118条1号)。

ワヴィニー

本設例においては、甲国における判決は、問題なく日本において承認されそうですね。

ここでは、間接管轄の確認を通じ、人訴法3条の2第1号につき確認をしておけば十分です。

まとめ

1.国際裁判等管轄等
● 人訴法3条の2第5号
● 人訴法3条の5

2.準拠法選択等
● 通則法28条1項・2項
● 通則法32条

3.外国判決等の承認・執行等
● 民訴法118条1号
● 人訴法3条の2第1号

ワヴィニー

最後に、甲国法等の外国法への向き合い方については、こちらを参照しておいて下さい。
●「外国法(向き合い方)~準拠法として

全くの余談ですが、ラグビーにはキッカーが存在(登場)しますが、卓球ではありえませんね。

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