【第21回】 離婚の準拠法
…というわけなんです。
伯母には、日本の水しか合わなかったようで…
テーマ
1.国際裁判等管轄等
● 離婚の国際裁判管轄
● 特別の事情
2.準拠法選択等
● 離婚の準拠法
3.外国判決等の承認・執行等
● 外国離婚判決等の承認・執行
事案
● 律子の伯母A(日本人)は、甲国において、夫B(甲国人)と婚姻生活を送っていた。
● しかし、Aはどうしても甲国の習慣等に馴染めないことから、単身日本に帰国し、住民登録をした(常居所地は日本と認められる)。
● その後、Bからは全く連絡がなく、現在は行方不明となっている。
● Aは、日本の裁判所において、Bとの離婚を求める訴えを提起した。
本事案も、日本・甲国に跨ることから、「国際的私法関係」に属しますね。
本事案では、訴えが提起されていますので、国際裁判管轄が問題となります。
1.国際裁判等管轄等
(1)国際裁判管轄
人事訴訟法
第二節 裁判所
第一款 日本の裁判所の管轄権
(人事に関する訴えの管轄権)
第三条の二 人事に関する訴えは、次の各号のいずれかに該当するときは、日本の裁判所に提起することができる。
一 身分関係の当事者の一方に対する訴えであって、当該当事者の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
二 身分関係の当事者の双方に対する訴えであって、その一方又は双方の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
三 身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
四 身分関係の当事者の双方が死亡し、その一方又は双方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
五 身分関係の当事者の双方が日本の国籍を有するとき(その一方又は双方がその死亡の時に日本の国籍を有していたときを含む。)。
六 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、当該身分関係の当事者が最後の共通の住所を日本国内に有していたとき。
七 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方が行方不明であるとき、他の一方の住所がある国においてされた当該訴えに係る身分関係と同一の身分関係についての訴えに係る確定した判決が日本国で効力を有しないときその他の日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき。
本事案については、伯父(B)の「住所」「居所」が日本国内に存在したことはないことから、1号・6号に該当しないことは確かです。
また、本事案における訴えは、伯母(A)から、少なくとも死亡は確認されていない伯父(B)に対する訴えですから、「双方に対する訴え」・「死亡」等と規定する2号から4号にも該当しないことは明らかです。現時点では、それらの条文の趣旨は良く解かりませんが…。
さらに、伯母(A)は日本人であり、伯父(B)は甲国人ですから、5号の「双方が日本の国籍」にも該当しません。
…あっ、「行方不明」(7号)との文言があります!
● 趣旨
(人訴法3条の2第7号が、「特別の事情」があると認められる場合に国際裁判管轄を認めた趣旨)
「個別に定められた管轄原因に該当しないために我が国の裁判所で裁判を受ける機会が不当に失われることを防止する」
【内野・一問一答 36頁】
● 平成30年人事訴訟法・家事事件手続法等改正
・ 人事訴訟法が改正され、過去の最高裁判例(最大判昭和39年3月25日)に沿う立法がされた。
(なお、同判例には、「遺棄」との文言があるが、当該文言については改正に際し採用されていない。ここではこれ以上立ち入らない。)
● 最大判昭和39年3月25日
(被告住所地管轄の原則を確認した上で)
「しかし、他面、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合においても、いたずらにこの原則に膠着し、被告の住所がわが国になければ、原告の住所がわが国に存していても、なお、わが国に離婚の国際的裁判管轄が認められないとすることは、わが国に住所を有する外国人で、わが国の法律によつても離婚の請求権を有すべき者の身分関係に十分な保護を与えないこととなり…、国際私法生活における正義公平の理念にもとる結果を招来することとなる。」
本事案については、「日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方」である伯母さん(A)からの訴えであって、「他の一方」である伯父さん(B)が「行方不明」であるときに該当しますから、「特別の事情」があるとして、日本の裁判所の国際裁判管轄が肯定されるでしょう。
ただ、そのような「特別の事情」(人訴法3条の2第7号)が認められる場合においても、別途「特別の事情」(人訴法3条の5)に基づく訴え却下の可能性はあります。財産関係事件における「特別の事情」(民訴法3条の9)と類似する条文ですね。
本事案においては、その適用はなさそうですが、この機会に条文を一読はしておいて下さい。
(2)特別の事情
人事訴訟法
(特別の事情による訴えの却下)
第三条の五 裁判所は、訴えについて日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合においても、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地、当該訴えに係る身分関係の当事者間の成年に達しない子の利益その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、その訴えの全部又は一部を却下することができる。
日本の裁判所の国際裁判管轄が認められるとして、甲国法・日本法の内容が異なりうることから、次に準拠法選択が問題となりますね。
設例を使って解説します。
2.準拠法選択等
【設例】
● 律子の伯母A(日本人)は、甲国において、夫B(甲国人)と婚姻生活を送っていた。
● しかし、Aがどうしても甲国の習慣等に馴染めないことから、単身日本に帰国し、住民登録をした(常居所地は日本と認められる)。
● その後、ABは、協議した結果、離婚することとし、日本において揃って離婚届を提出しようとしている。
(1)離婚(原則)
通則法
(離婚)
第二十七条 第二十五条の規定は、離婚について準用する。(以下略)
(婚姻の効力)
第二十五条 婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。
● 段階的連結
・ 夫婦財産制の準拠法(通則法26条)同様、婚姻の効力に関する条文(通則法25条)を「準用」している。
● 単位法律関係
・ 離婚の要件・方法(例:タラーク離婚)・効果等
【注意】
離婚の「方法」と「方式」(後述)は異なる。「方法」は、実質的な趣旨を有する離婚の手法のことを指し、単なる「形式」とは一線を画する。
● 連結点
・ 国籍
・ 常居所
・ 最密接関係地
● 準拠法
・ 本国法
・ 常居所地法
・ 最密接関係地法
既に通則法25条(婚姻の効力)・26条(夫婦財産制)の解説を伺ったので、特に問題なく理解ができます。
ただ、通則法27条(離婚)については、例外があるのです。そのただし書です。
(2)日本人条項
(離婚)
第二十七条 第二十五条の規定は、離婚について準用する。ただし、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。
● 趣旨
(通則法27条ただし書)
「我が国が協議離婚制度を有することから、形式的審査を前提として処理する戸籍吏に密接関連法の認定という困難な判断を強いることになり、実務的に機能し難いため」
【南・解説 92-93頁参照】
● 日本人条項
(通則法27条ただし書)
・内外法平等の理念に反するとの理論的批判がある。
確かに、自分が戸籍窓口の担当者だとすると、常に適切に「最密接関係地法」(通則法27条・25条)の認定をできる自信はありません…。それは他の方でも同様に思われます。
ただ、戸籍実務、という行政上の不都合から、国際私法立法上の重要基本理念である内外法平等の例外を認める点等について、批判もあるところです。ここではこれ以上立ち入りませんが。
本設例についてみると、「夫婦の一方」たる伯母さん(A)は、「日本に常居所を有する日本人」ですから、伯父さん(B)との離婚は日本法(民法764条・739条)によることとなりますね。協議離婚届出をすれば、問題なく認められるでしょう。
確かに、戸籍窓口の方としては、甲国・日本のいずれが最密接関係地法なのか等の調査をする必要が無く、負担がないですね。
さて、先程「方法」と「方式」は異なる、との話をしました。
本設例において、ABが離婚届を提出しようとしている点、そのような届出による離婚が可能か否かは、「方式」の準拠法次第です。そこで、次に方式の準拠法を見ておきましょう。
(3)方式
(親族関係についての法律行為の方式)
第三十四条 第二十五条から前条までに規定する親族関係についての法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法による。
2 前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は、有効とする。
● 趣旨
法律関係の成立を容易にすること等(通則法10条1項・2項と同様)。
【小出・一問一答 141頁参照】
(法律行為の方式)
第十条 法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法(中略)による。
2 前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は、有効とする。
3~5 (略)
既に通則法10条の解説を伺ったので、特に問題なく理解ができます。
本設例においては、先に見た通り、離婚の準拠法が日本法ですから、日本での届出による離婚は、方式の準拠法上の要件を充足することとなります(通則法34条1項)。
なお、「日本において揃って離婚届を提出」とのことで、行為地法も日本法ではありますが、通則法34条2項の出番はないのでしょうか?通則法34条1項・2項の規定振りという形式と、選択的連結という実質との理解に関わりますね。自分なりに考えておいて下さい。
それでは次に、もう1つ設例を用いて、解説をしましょう。
3.外国判決等の承認・執行等
【設例】
● 律子の伯母A(日本人)は、甲国において、夫B(甲国人)と婚姻生活を送っていた。
● しかし、Bから同居を拒絶されるに至ったため、単身日本に帰国し、住民登録をした(常居所地は日本と認められる)。
● その後、Bは、甲国の裁判所において、Aとの離婚を求める訴えを提起し、Aに対する公示送達を経て、認容判決を得た(確定)。
● Aも、C(日本人・日本在住)と再婚するため、Bとの離婚を望んでいる。
(1)外国離婚判決
(外国裁判所の確定判決の効力)
第百十八条 外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
一 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
二 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
三 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
四 相互の保証があること。
● 人事訴訟事件に関する外国判決の承認(争いあり)
現時点では、財産関係法事件同様、民訴法118条が全面的に適用されると考えておけば十分。
(反対説として、国際的な家族関係の安定・円滑等を理由に、例えば民訴法118条4号の要件は不要とすべき、等の考え方が存在する。)
そうすると、本設例において、甲国における離婚判決は民訴法118条2号括弧書きの要件を充足しないため、日本においては承認されていない状態にあるということですね。
…ということは、日本においては、伯母(A)と伯父(B)は婚姻している状態にありますから、伯母(A)はCさん(日本人・日本在住)と再婚できないのでは?
伯母(A)が離婚を望んでいるとすると、伯母を保護する民訴法118条2号括弧書きの要件不充足により、むしろ伯母(A)の希望が達せられない点には違和感がありますが…
そう思われますね。
ただ、その問題について、ここで民訴法118条の問題としては立ち入らないとしても、他に解決方法はありますね。
先程「1.国際裁判等管轄等」のところで見た人訴法3条の2第7号には、「行方不明」の後ろにも文言がありましたから。
(2)補足
人事訴訟法
第二節 裁判所
第一款 日本の裁判所の管轄権
(人事に関する訴えの管轄権)
第三条の二 人事に関する訴えは、次の各号のいずれかに該当するときは、日本の裁判所に提起することができる。
一 身分関係の当事者の一方に対する訴えであって、当該当事者の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
二 身分関係の当事者の双方に対する訴えであって、その一方又は双方の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
三 身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
四 身分関係の当事者の双方が死亡し、その一方又は双方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
五 身分関係の当事者の双方が日本の国籍を有するとき(その一方又は双方がその死亡の時に日本の国籍を有していたときを含む。)。
六 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、当該身分関係の当事者が最後の共通の住所を日本国内に有していたとき。
七 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方が行方不明であるとき、他の一方の住所がある国においてされた当該訴えに係る身分関係と同一の身分関係についての訴えに係る確定した判決が日本国で効力を有しないときその他の日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき。
● 趣旨
(人訴法3条の2第7号が「特別の事情」があると認められる場合に国際裁判管轄を認めた趣旨)
「個別に定められた管轄原因に該当しないために我が国の裁判所で裁判を受ける機会が不当に失われることを防止する」
【内野・一問一答 36頁】
● 平成30年人事訴訟法・家事事件手続法等改正
・ 人事訴訟法が改正され、過去の最高裁判例(最二判平成8年6月24日)に沿う立法がされた。
● 最二判平成8年6月24日
(被告住所地管轄の原則を確認した上で)
「しかし、被告が我が国に住所を有しない場合であっても、原告の住所その他の要素から離婚請求と我が国との関連性が認められ、我が国の管轄を肯定すべき場合があることは、否定し得ないところであり、どのような場合に我が国の管轄を肯定すべきかについては、…当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理にしたがって決定するのが相当である。」
勿論細部は異なるものの、外国離婚判決が日本で承認されないが故に生じる問題を孕む点において、平成8年判決は、本設例と類似した事案でした。
本設例に即した個別具体的な判断を試みて下さい。おそらく、日本の裁判所の国際裁判管轄は認められるでしょう。
伯父(B)が何らかの理由で日本における協議離婚には応じないと仮定すると、裁判離婚になるのでしょうが、その場合でも日本人条項が適用されるのでしょうか?戸籍窓口の方の便宜を考慮した日本人条項なのであれば、裁判においては適用しないことが少なくとも論理的に思われますが。裁判官にとっても、「最密接関係地」の認定は難しいのですかね。
いずれにしても、自分なりに考えてみます。
なお、ここでの「補足」は、解説の流れ・便宜上、「3.外国判決等の承認・執行等」において触れられていますが、実質的には、国際裁判管轄(そして上記私の疑問については準拠法選択)の問題であることは、十分理解しています。
まとめ
1.国際裁判等管轄等
● 人訴法3条の2第7号
● 人訴法3条の5
2.準拠法選択等
● 通則法27条本文・ただし書
● 通則法25条
● 通則法34条1項・2項
● 通則法10条1項・2項
3.外国判決等の承認・執行等
● 民訴法118条2号
最後に、甲国法等の外国法への向き合い方については、こちらを参照しておいて下さい。
●「外国法(向き合い方)~準拠法として」
ところで、伯母さん(A)と伯父さん(B)との間に、お子様はいらっしゃらなかったのでしょうか?
「お子様」といえば…
【第22回】 嫡出親子関係の準拠法