外国法(向き合い方)~準拠法として

律子

国際私法を学ぶには、外国法を学ぶ必要があるのでしょうか?

ワヴィニー

前提として学ぶ必要はないですが、外国法を学ぶことで、国際私法の学習効果が促進される面はあります。

具体的には、外国法に触れることで、内外法平等の考え方を実感でき、内国法優先の発想に陥るリスクが低下する等の効用が考えられます。

更には、国際法務のキャリアを比較的切り拓き易くなる等、外国法を学ぶメリットは多いですね。

テーマ

●外国法との向き合い方(実務)
●外国法の学び方(対象・範囲)

目次

1.問題の所在
2.結論
(1)外国法(向き合い方)
(2)外国法(個別編)
 (A)米国法
 (B)EU法・ドイツ法
 (C)中国法
3.大前提(日本法・国際私法・英語)
(1)日本法
(2)国際私法・英語

1.問題の所在

【設例】

● A(甲国人・28歳)は、甲国(公用語:甲国語。いわゆる親日国)で生まれ育ち、18歳頃までは大学(法学部)受験のため、(外国語として)日本語を学習していたものの、大学(法学部)入学後は甲国司法試験の学習、卒業後は小さな国内企業で法務(甲国内における販売等。甲国語によるもの)の実務経験等に時間を費やして来た。

● 20XX年、Aは、難関である甲国の司法試験に合格する意欲・能力までは有しなかった一方、30歳を目前にした時期に1年間、日本の法科大学院(新設コース:海外の法学部において教育を修了した者向け)に留学し、日本の法曹資格は得た。
(20XX年の日本においては、度重なる法曹養成制度改革等の結果、司法試験合格率は約70%(全受験生対比)・弁護士数は50万人となっていた。なお、日本の人口については、政府による少子化対策が功を奏した結果、2020年頃とほぼ同様の状態を維持できていた。)

● 甲国に帰国したAは、外資系企業(日系企業。甲国内での製品販売等の広義のマーケティングのために設立された。)において、主に甲国内における販売等に係る法務に従事する傍ら、甲国内において日本法の普及活動を行っている。

ワヴィニー

質問ですが、日本居住の律子さんとして、例えば日本の判例集等を読んでいて疑問を抱いた場合、Aさんに教えてもらおうと思いますか?

律子

いえ。

設例では、日本に50万人の弁護士がいますので…。

何より、Aさんについては、20xx年時点での日本の司法試験(合格率70%)には合格しているものの、日本において現在も実務に携わっている弁護士と比較すると信頼性が…

ワヴィニー

では、甲国居住のBさんがいたとして、何らかの理由で日本法に関する問題を抱えた場合、Aさんに依頼等するべきでしょうか?

律子

…少なくとも甲国内では(周囲からは)、Aさんは甲国における「日本(法)通」・「日本語通」等とは理解はされているでしょうから、雑駁な話を聴くため最初にコンタクトするには良い方かも知れませんが。

しかし、日系企業で働いているとはいえ、当該日系企業の事業目的・Aさんの業務は「甲国内」の販売等に過ぎない以上、上記私のケース(私が日本の判例集等を読んでいて疑問を抱いた場合)と同様の観点から、少なくともAさんの見解のみに依拠するのは心配、というより危険と言わざるを得ません。

ワヴィニー

既にお気付きかも知れませんが、現実の世界において、「20XX年の日本」は「米国(例えばNY州)」、そして「甲国」は「日本」を指すと理解できます。(多少の合格率の変化等はさておき)事の本質としては、過去から現在に至るまで同様の状況が続いている、と言って良いでしょう。

なお、ここでのテーマは「外国法」ですので、Aさんの「日本語」(NY州等の司法試験を受験する日本人の場合には英語)については、少なくとも「試験の枠内での読み・書き」に絞れば、少なくとも致命的なハンディはなかったものとします。

2.結論

(1)外国法(向き合い方)

ワヴィニー

結論的には、「餅は餅屋」なのです。

したがって、外国法については、現地の法律家に確認する、の一択です。

私の言う「現地の法律家」には3要件があります。
1.現地の資格
2.現地の実務経験(一つの目安は最低限5年前後)
3.現地で現役
(ただし、2.の現地での実務経験が、英or米におけるものであり、かつ現在国際法務に従事している場合も「現役」とみなす。)

以上の1つでも要件を欠く場合、その方の意見は、「外国法に関する信頼できる意見」にはなりえません。

(2)外国法(個別編)

ワヴィニー

もっとも、外国法につき現地の法律家に確認することで「より良い回答を得る」ためには、「より良い質問をする」必要があり、そのためには、当該外国法の概要(全体像・基礎理論・基礎知識)を理解しておくのが効果的ではあります。

特に日本にとり(例えば経済活動等の面において)重要な国・地域については。

そこで、次にその一部を例示しておきます。

(A)米国法

ワヴィニー

学ぶ必要性については、多言を要しないでしょう。

歴史的経緯から経済面等での関係が深い国である点(そこから、特に独禁法・会社法・金商法等の経済系の法律に大きな影響が見られる点)、事実上の「国際的な法律」という側面を有する点、大陸法系に属する日本法の観点から「多様性」の点で米国法(英米法系)から学ぶことが多い点等、枚挙に暇がありません。

米国法については、何より「学習教材に事欠かない」点において、他を凌駕しています。下記を確認しておいて下さい。
●「米国法(読む・書く)(1)~一準拠法として
●「米国法(聞く・話す)(1)~一準拠法として

(B)EU法・ドイツ法

ワヴィニー

「欧米」(か!?)というぐらいですから、「米国法」を学ぶ以上、こちらも外せないでしょう。

EU構成国の国内法については、(1)英国のEU離脱問題があること、及び(2)「米国法」で「英米法」の基本・一部は学べることから、ここではドイツを例示しておきました。欧州一の経済大国の法でもありますし、日本法(特に民法等の基本的法律)の多くがモデルとした法(大陸法系)でもあり、いわゆるビジネス法に限定することなく、学ぶ意義は相応にあります。

ただ、相応に深く知るのは、実際の国際法務に関与してからで良いでしょう。

(C)中国法

ワヴィニー

これも言うまでもないでしょう。

漢字文化等を共有する隣国であり、また世界一・二を争う経済大国である等。日本にとり非常に重要な国です。

こちらも相応に深く知るのは、実際の国際法務に関与してからで良いでしょう。

律子

以上を学べば、国際法務を担当することが可能でしょうか?

3.大前提(日本法・国際私法・英語)

(1)日本法

ワヴィニー

当然のことながら、外国法調査の大前提として、質問する側が「日本法」(質問する法分野)自体について相応の知識・経験を有することは必須です。

質問するに際しても、「日本法ではこうなのだが、そちらの法律はどうなっているのか?」等の具体的質問をすることで、より良い回答が得られる可能性が高まるものです。

(2)国際私法・英語

ワヴィニー

外国法と日本法とを架橋するため、国際私法・英語の学習が必要です。ここでは、下記2点を指摘するに留めます。

1.国際私法
内外法平等の発想の下、世界各国の法律(外国法)・日本法が準拠法として選択(特定・適用)されるのです。そして、それら準拠法・それ以外の強行法規等につき、必要に応じ現地の法律家に問い合わせをし、総合的な法的検討した上で各種取引・プロジェクト等を進めることとなります。なお、勿論国際私法については、今後も各種解説の機会を設けます。

2.英語
現地の法律家とのコミュニケーション・ツールが「英語」です。英語については、下記も参照しておいて下さい。
●「英語(一般)~国際私法と併せ
●「英語(契約)~国際私法と併せ
●「英語(日本法)~国際私法と併せ

国際法務を担当するのであれば、国際私法・英語の双方を縦横無尽に駆使できる必要があります。

まとめ

● 外国法については、基本的な向き合い方は「餅は餅屋」。
● 「現地の法律家」の3要件は、資格・実務経験・現役。

● 良い質問をするためには、外国法の概要(全体像・基礎理論・基礎知識)を理解する。

● 日本法の知識・経験は前提として重要。
● 国際私法・英語も重要。日本法・外国法の橋渡しをするもの。

ワヴィニー

最後に、外国法に関し、私の知人(C君・日本人)から聞いた話をお伝えしておきましょう。
C君が駆け出しの頃、オーストラリアの代理店との契約を担当することとなり、インターネットでオーストラリア法(代理店保護法)のリサーチを完結させようとしたところ、法務部長から助言されました。

「C君、あそこの本棚(日本法の書籍がずらり)を見てごらん。

オーストラリアの企業法務部門にも、同様に大量の専門書(英語)が並んでいるだろう。勿論現地には弁護士もいる。

C君がオーストラリア法をリサーチし、何らかの結果が出ても、残念ながら会社としてはそれに依拠できない。仮にC君のリサーチ結果が正しいとしても、その根拠資料は、オーストラリアの法律家が用意する。

『餅は餅屋』だよ。」

律子

国際法務の世界では、外国法の概要(全体像・基礎理論・基礎知識)を知るための調査であれば別論、それ以上の調査については、「オーストラリア法まで良く調べ(ようと試み)たね」等と褒められることではないのですね…

それどころか、経済合理性・結果の適正確保等の観点から、むしろ深く調査しないよう「助言」されることであり…。学生時代とは発想の転換が必要です。

頂いたお話を受け、私としては、国際私法を学ぶ場合には、まずは米国法から着手してみます。

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