【第4回】 物権の準拠法(1)
…というわけなんです。
敗訴も想定し、実家のガレージに車を置くことができないか相談するため、一時実家に帰っていました。
テーマ
1.国際裁判管轄
● 不動産所在地管轄
2.準拠法選択
● 物権の準拠法
3.外国判決の承認・執行
● 確定判決
事案
● 律子は、一人旅で甲国に滞在中、甲国人A(日本居住)と知り合い、Aが日本において所有し自家用車用に使用していた駐車場(「本件駐車場」)を月額3万円で借りる契約をした。
● 念のため簡易に作成された律子・A間での本件駐車場賃貸借契約(書)(契約締結地:甲国)(「本件賃貸借契約(書)」)において、契約の準拠法は甲国法とされている 。
● 帰国してから半年後、本件駐車場を使用していたところ、その1ヶ月前にAから本件駐車場を買受け所有権移転登記を具備したという乙国人B(新所有者)から律子に対し、所有権に基づく本件駐車場の明渡請求の訴えを提起された。
● AB間の本件駐車場売買契約(書)(「本件売買契約(書)」)において、契約の準拠法は乙国法とされている。
結論から言えば、賢明なご判断です。
さて、本事案も、日本と外国(甲国・乙国)に跨ることから、国際的私法関係に属します。被告である律子さんの住所地管轄(民訴法第3条の2第1項)は認められるでしょうが、それ以外にも管轄原因があります。
1.国際裁判管轄
(1)不動産所在地
(契約上の債務に関する訴え等の管轄権)
第三条の三 次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定めるときは、日本の裁判所に提起することができる。
(略)
十一 不動産に関する訴え 不動産が日本国内にあるとき。
(略)
● 趣旨(民訴法3条の3第11号)
「不動産の所在地には係争物である土地・建物や登記簿等が存在するため、証拠調べに便宜であり、また、利害関係者が近くに居住していることも多いと考えられる」ことにある(佐藤=小林・一問一答 77頁)。
日本の裁判所の国際裁判管轄が問題なく認められそうですが、住所地管轄とどちらによるのでしょうか?
…管轄原因については、国内土地管轄同様、少なくとも1つは必要ですが、 複数認められることもあります。
その上で、1つ又は複数認められた管轄原因全体につき一括して、民訴法3条の9の「特別の事情」につき検討されます。
本事案においては、お伺いする限り、日本の裁判所の管轄を否定するだけの特別の事情はなさそうですね。
次に、日本国民法(物権法)・甲国民法(物権法)・乙国民法(物権法)いずれが適用されるかにより、本事案の解決が異なりうるため、準拠法選択が問題となります。
2.準拠法選択
(1) 所在地法主義
第三節 物権等
(物権及びその他の登記をすべき権利)
第十三条 動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利は、その目的物の所在地法による。
2 前項の規定にかかわらず、同項に規定する権利の得喪は、その原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法による。
● 趣旨
(通則法13条が、「目的物の所在地法」を物権の準拠法とした趣旨)
1. 物の直接的排他的利用に関する権利であることから、物理的な所在場所の法によることが適合的。
2.取引の安全・第三者の予見可能性確保等の観点から、所在地法による必要性がある。
3.所在地法以外の準拠法に依拠することは、所在地における登記等の技術的側面から非実際的。
等
● 単位法律関係(1)
(通則法13条1項)
・「動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利」
物権法定主義、対抗要件(登記・引渡等)の要否、 物権的請求権等
・「 その他の登記をすべき権利 」
不動産賃借権等
● 単位法律関係(2)
(通則法13条2項)
・(前項に規定する)「権利の得喪」
物権変動 (即時取得等) の要件・効果
● 連結点
(通則法13条1項・2項共通)
「目的物の所在地」
(ただし、第2項においては、「権利の得喪」という物権変動を画する規定の性質上、その基準時の特定が必要であり、「その原因となる事実が完成した当時における」という時的限定が付されている。)
● 準拠法(通則法13条1項・2項共通)
「目的物の所在地法」
● 物権行為の独自性
物権その他の登記すべき権利が契約等により設定される場合、債権行為とは別に、物権行為自体の準拠法が独自に問題となる。
【注意(再確認)】
日本の民法においては、物権行為独自性否定説が通説と言われているが、通則法上は、物権行為独自性肯定説が通説。
1.内外法平等の観点から、 通則法(国際私法)につき、 一国の実質法(日本の民法)に依拠した解釈はされるべきではない。
2.通則法は民法とは別個独立した法律である以上、民法と同様の解釈をすべき必然性はない。
本事案においても、本件賃貸借契約・本件売買契約には2面性(債権行為・物権行為)があります。
債権行為の準拠法(甲国法・乙国法)中にも物権に関する規定があるでしょうが、通則法上、それには依拠しません。
即ち、本件賃貸借契約(債権行為の面)の準拠法が甲国法であること、及び本件売買契約(債権行為の面)の準拠法が乙国法であることは、本事案における物権の準拠法には直接関係がない、と言えます。
各単位法律関係の峻別、が必要なのですね。
「不動産」である本件駐車場につき、律子さんが本件賃貸借契約により賃借権を「得」るか否か、及びBが本件売買契約に基づき所有権を「得」るか否かについては、「権利の『得』喪」の問題として、「その原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法」である日本法によります(通則法13条2項)。
国際私法(間接規範)の役割は超えますが、日本法適用の結果、本件駐車場については、本件賃貸借契約締結により律子さんの賃借権が発生する一方、本件売買契約締結によりBが所有権者となります。
まず、通則法13条(1項ではなく)2項から検討するのですね。
そして、当該所有権・賃借権の内容は、「動産又は不動産に関する『物権』及び『その他の登記をすべき権利』」として、同じく「目的物の所在地法」である日本法によります(通則法13条1項)。
これも国際私法(間接規範)の役割を超えますが、日本法適用の結果、律子さんの有する本件駐車場の賃借権については、その登記(民法605条)がなければ、所有権者Bに対し対抗することはできません。
本事案においては、本件駐車場の賃借権の登記などしているはずはなく、車は撤去しないといけないようですね…
なお、通則法13条の趣旨をより良く理解するためには、例えば不動産所在地ではない甲国の民法が物権の準拠法となり、当該準拠法上の賃借権の存続期間が「100年」だと仮定してみて下さい。その場合、実際上どのような問題が発生しそうでしょうか?(民法604条参照)
…甲国民法が準拠法となり、存続期間100年の賃借権が登記され対抗要件を具備したとすると、例えば本件駐車場をBからの転売により取得した第三者にとり、想定外の制限が生じるようにも思われます。
また、そもそもそのような賃借権については、登記申請が受付けられないようにも思われます。
不動産について、その所在地以外の法を準拠法とすることは、様々な観点で難しそうですね。
他方、通則法13条は、動産についても、不動産と区別することなく規定しています。本事案においては、動産は問題となりませんが、この機会に通則法13条の趣旨について更に確認をしておきましょう。
(2)同則主義
第三節 物権等
(物権及びその他の登記をすべき権利)
第十三条 動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利は、その目的物の所在地法による。
2 前項の規定にかかわらず、同項に規定する権利の得喪は、その原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法による。
● 「動産・不動産同則主義」
・ 通則法13条が採用。
・ 動産・不動産を同列に扱う。
● 趣旨
「動産・不動産異則主義」の不都合性等にある。
● 「動産・不動産異則主義」
・ 通則法は採用せず。
・ 動産は所有者の住所地法に、不動産は所在地法による主義(英米等で採用されている)
その沿革的根拠として、例えば下記が挙げられる。
1.動産の経済的価値は低く、固有の準拠法を観念する必要性に乏しい。
2.動産は移転し易く所在地法によると法律関係が不安定・不明確になる。それに対し、所有者の住所地法であれば安定している。
しかし、経済の発達に伴う状況変化等により、多くの国(日本を含む)は同則主義を採用。
1.動産にも不動産同様に高価なものがあり、独自に準拠法を決定すべき必要性が高い。
2.人の移動が活発になると、所有者の住所地は必ずしも安定的ではない。
3.複数の共有者がいる場合、全員の住所地法によることは実際上困難。
異則主義について理解することで、同則主義(通則法13条)をより良く理解できます。
では次に、本事案を離れ、設例につき考えてみましょう。
3.外国判決の承認・執行
【設例】
● Bが、乙国の裁判所において、律子に対し本件駐車場の明渡請求の訴えを提起し、律子は知人である乙国弁護士を通じ応訴したところ、第一審はB勝訴判決。
● 当該訴え・判決等については、手続面・実体面で問題がなかった他、日本・乙国間には「相互の保証」もある。
● Bは、日本の裁判所において、律子に対し、当該勝訴判決につき、日本における執行判決を得るための訴えを提起。
(設例とはいえ)私としては、わざわざ乙国で応訴しましたし、第一審判決について控訴はしたいと考えるでしょうね。
ただ、「応訴した」ので民訴法118条2号の要件は充足しますし、その他を含め、民訴法118条1号から4号の全要件を充足するようですので、日本において執行されても仕方ないですね…
118条には柱書があります。現時点で強制執行がされると、律子さんも困るでしょうが、日本の法秩序の観点でも懸念があります。
(1)確定判決
(外国裁判所の確定判決の効力)
第百十八条
外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
(略)
● 趣旨(民訴法118条柱書)
日本において承認・執行された外国判決が、当該外国の上級審で覆され、日本において混乱(執行取消し・損害賠償等)が生じることを予防。
● 「判決」
(民訴法118条柱書)
・「私法上の法律関係について当事者双方の手続的保障の下に終局的にした裁判をいうものであり、
・決定, 命令等と称されるものであっても」該当する(最判平成10年4月28日判決参照)。
判決が未確定で助かりました…。あ、これは設例でしたね(笑)。
まとめ
1.国際裁判管轄
● 民訴法3条の3第11号
2.準拠法選択
● 通則法13条1項・2項
3.外国判決の承認・執行
● 民訴法118条柱書
最後に、甲国法等の外国法への向き合い方については、こちらを参照しておいて下さい。
●「外国法(向き合い方)~準拠法として」
それにしても、一人旅の旅先で知り合った方と不動産に関する契約をするとは…。まぁ、最近の若い方は外国に行きたがらないという話も仄聞しますので、ある意味で頼もしい話ではありますが。友人・知人と一緒の旅行であれば、事前に何らかのアドバイスをもらえたかも知れなかったですね。
知人と一緒の旅行と言えば…
【第5回】 不法行為の準拠法(2)